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第277回:田舎だから飲んでも運転していい……わけがない! 『嗤う蟲』 【読んでますカー、観てますカー】

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第277回:田舎だから飲んでも運転していい……わけがない! 『嗤う蟲』 【読んでますカー、観てますカー】
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城定秀夫監督が内藤瑛亮の脚本で挑む“村八分スリラー”。田舎暮らしに憧れて「日産ノート」で山あいの村にやってきた若夫婦はスローライフを楽しんでいたが、次第に秘められた“村の掟”のワナに絡め取られていく……。

隣家の住人が、自分の畑で取れた野菜を持ってきてくれた。大家さんにあいさつにいくと、コワモテのおやじが出てきた。顔が怖いだけで、笑顔になると人懐っこさがあふれ出る。「わからないことがあったら何でも相談してくれ」と話し、頼りになりそうだ。 上杉輝道、長浜杏奈の夫婦を演じるのは、若葉竜也と深川麻衣。今泉力哉監督の傑作『愛がなんだ』では深川麻衣が若葉竜也を都合のいい男として雑に扱っていたが、ようやく対等な関係を築いたようだ。とても喜ばしい。今泉力哉と脚本と監督をクロスして『愛なのに』と『猫は逃げた』という2つの作品を作った盟友の城定秀夫がこの映画の監督を務める。あの感動作『アルプススタンドのはしの方』を撮った人だから、きっとハートウオーミングなストーリーが紡がれていくはずだ。 それにしては、『嗤う蟲』というタイトルがおどろおどろしいのが気になる。何より不安を誘うのは、脚本にクレジットされているのが内藤瑛亮であることだ。トラウマを生むイヤミス映画として名高い『ミスミソウ』の監督である。あれは都会から地方の町に引っ越した女子中学生が壮絶ないじめに遭い、血まみれの復讐(ふくしゅう)劇に発展していくスプラッタームービーだった。 悪い予感は早々に当たる。村の人たちは親切というよりおせっかいで、むしろ押し付けがましい。村の流儀を強要するようになり、個人的なことにまで口を挟む。いつも監視されているようで、情報はまたたく間に全員に知れ渡る。夫婦別姓にしていることに難癖をつけ、早く子供を作れとうるさく言ってくるのは完全にプライバシーの侵害だ。 村は自然災害で大きな被害を受け、普通に野菜を売るだけでは経済が成り立たないようになってしまっていた。苦肉の策で、もっと金になる作物を育てることを決断したのが田久保である。麻宮村という名前には意味があったのだ。そういえば、若夫婦の家の庭には、ギザギザの葉を持つ見慣れない植物が植えられていた。 村の一大行事が古くから伝わる火祭りである。激しく炎を吹き出す竹筒を持つのは、一人前の村人になった証しだ。輝道は田久保から指名され、名誉ある筒持ちをまかされる。祭りの後は、盛大な宴会である。楽しく酒を飲み交わすのが習いだ。輝道はピクシストラックに乗ってきていたので歩いて帰ろうとするが、田久保は「村ん中だらぁ、大丈夫だに」と言う。田舎あるあるだが、もちろんダメである。口車に乗せられたことで、輝道は悲劇の階段を転がり落ちていく……。 田舎社会の闇を扱っているだけに、製作陣は場所が特定されないように気を使ったそうだ。村人たちが話す「だらぁ」とか「だに」は静岡県西部で使われている言葉だが、「飲もまい」というのは名古屋っぽい。「食べり~」は博多あたりだろう。村人たちが感謝の言葉として使う「ありがっさま」は完全な創作方言だ。せっかく細心の注意を払ったのに、パトカーに“愛知県警”と書いてあったから台無しなのだが。 名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。.

隣家の住人が、自分の畑で取れた野菜を持ってきてくれた。大家さんにあいさつにいくと、コワモテのおやじが出てきた。顔が怖いだけで、笑顔になると人懐っこさがあふれ出る。「わからないことがあったら何でも相談してくれ」と話し、頼りになりそうだ。 上杉輝道、長浜杏奈の夫婦を演じるのは、若葉竜也と深川麻衣。今泉力哉監督の傑作『愛がなんだ』では深川麻衣が若葉竜也を都合のいい男として雑に扱っていたが、ようやく対等な関係を築いたようだ。とても喜ばしい。今泉力哉と脚本と監督をクロスして『愛なのに』と『猫は逃げた』という2つの作品を作った盟友の城定秀夫がこの映画の監督を務める。あの感動作『アルプススタンドのはしの方』を撮った人だから、きっとハートウオーミングなストーリーが紡がれていくはずだ。 それにしては、『嗤う蟲』というタイトルがおどろおどろしいのが気になる。何より不安を誘うのは、脚本にクレジットされているのが内藤瑛亮であることだ。トラウマを生むイヤミス映画として名高い『ミスミソウ』の監督である。あれは都会から地方の町に引っ越した女子中学生が壮絶ないじめに遭い、血まみれの復讐(ふくしゅう)劇に発展していくスプラッタームービーだった。 悪い予感は早々に当たる。村の人たちは親切というよりおせっかいで、むしろ押し付けがましい。村の流儀を強要するようになり、個人的なことにまで口を挟む。いつも監視されているようで、情報はまたたく間に全員に知れ渡る。夫婦別姓にしていることに難癖をつけ、早く子供を作れとうるさく言ってくるのは完全にプライバシーの侵害だ。 村は自然災害で大きな被害を受け、普通に野菜を売るだけでは経済が成り立たないようになってしまっていた。苦肉の策で、もっと金になる作物を育てることを決断したのが田久保である。麻宮村という名前には意味があったのだ。そういえば、若夫婦の家の庭には、ギザギザの葉を持つ見慣れない植物が植えられていた。 村の一大行事が古くから伝わる火祭りである。激しく炎を吹き出す竹筒を持つのは、一人前の村人になった証しだ。輝道は田久保から指名され、名誉ある筒持ちをまかされる。祭りの後は、盛大な宴会である。楽しく酒を飲み交わすのが習いだ。輝道はピクシストラックに乗ってきていたので歩いて帰ろうとするが、田久保は「村ん中だらぁ、大丈夫だに」と言う。田舎あるあるだが、もちろんダメである。口車に乗せられたことで、輝道は悲劇の階段を転がり落ちていく……。 田舎社会の闇を扱っているだけに、製作陣は場所が特定されないように気を使ったそうだ。村人たちが話す「だらぁ」とか「だに」は静岡県西部で使われている言葉だが、「飲もまい」というのは名古屋っぽい。「食べり~」は博多あたりだろう。村人たちが感謝の言葉として使う「ありがっさま」は完全な創作方言だ。せっかく細心の注意を払ったのに、パトカーに“愛知県警”と書いてあったから台無しなのだが。 名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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