猛暑のランニング、マラソン練習より基礎力向上を ランニングインストラクター 斉藤太郎
ニッポンランナーズでは猛暑の練習会が続いています。定例の練習会は午前9時30分集合。多くのメンバーが家事などを済ませて集まれるのがこの時間ということで、年々厳しくなる気候コンディションですが、変えることなく活動しています。 少しでも暑さをしのげればという思いで、週末は7時から始める特別活動を企画してみたものの、普段活動する千葉県佐倉市の湿度は6〜9時ごろは80〜90%、定期練習会の時間帯の9〜12時ごろが65〜80%。気温が低い、朝早い時間帯にむしろ息苦しさを感じる「ねじれ現象」です。幸い、拠点の岩名運動公園は木々に囲まれ、木陰の多い舗装路も不整地(ウッドチップ)コースも整っており、趣向を凝らして走っています。高温多湿のコンディションで走るにあたっては、体中を巡る血液を冷やすことがポイントの一つ。休息時には保冷剤や水を凍らせたペットボトルを手で握ったり、頭の上に乗せたりして冷却を試みる方もいます。首周りに冷たいタオルを巻くことも首筋の動脈の冷却につながり、効果的です。キャップにフード(日よけ)を装着すると後頭部への直射日光をしのげます。 ニッポンランナーズの会員では小さなクーラーバッグを持参される方が過半数います。中には給水、アイスパック、ゴール後のご褒美ドリンクなど。カスタマイズも楽しまれているようです。タブレットによる塩分補給にも気を配っています。 荷物は木陰に置くようにしています。近くには水飲み場とトイレがあり、遠出の必要がないコンパクトな周回コースをつくります。こうすることで距離や本数の調節がしやすく、途中抜けや早退がしやすくなります。自動体外式除細動器(AED)の設置場所の共有も欠かせません。メンバー同士がすれ違えるコース取りをすることで、お互いに表情を観察できたり、励ましあえたりするようにもしています。暑熱環境での練習メニューの例をご紹介します。この時期は、レースを想定したペースで長く走る実戦練習は一旦、保留としています。取り入れているのは、リカバリータイムを長めにしたインターバル形式のメニューや、ペースにゆとりを持っての集団ロング走。給水は周期を決め、足並みをそろえて取っています。▼クロカン120分集団走(1キロあたり6分から8分といったゆとりあるペースで辛抱強く。給水は1.
6キロ2周ごと、45秒以内にサクッと)=足腰強化練習▼1キロ×5〜7本(500メートルまではゆっくり集団走。残り500メートル、上り坂でギアチェンジ)=フォームの切り替え練習これらのメニューをこなす背景として、基礎力・人間としての総合力を育むこととフォームの養成を7〜8月のテーマに据えています。暑い夏でもできることを粛々と。基礎力を育む段階とは、人間の成長発達過程でいうと寝返りやハイハイといった歩き出す前の段階にあたります。この行程に重点的に取り組むことで、「正しい姿勢でバランスよく立つ」「二足歩行」「理想的なフォームで走る」段階へと効率的に進めるのです。着実に基礎練習を積み重ねることが、充実したフルマラソンの実戦練習につながります。武道では、取り組む稽古を「原理(基本)」「技」「実戦(応用)」といった層に区分するそうです(甲野善紀、方条遼雨著「上達論」)。「実戦」は「技」の応用・集合。「技」は「原理」に基づき形成・運用されるという解釈です。 「原理」の体得段階では、その動作や力の使い方を体に染み込ませるために、同じ体勢からの動作を何十回、何百回と繰り返します。ところがそこへ「それではこういう攻撃が入った場合に太刀打ちできないですよ」と横やりを入れる方がたまにいるそうです。目的は「原理」の体得。あくまで「技」や「実戦」へと発展させる前段階の稽古なのに、「技」「実戦」を持ち出して、マウントを取ろうとする悪い例です。 似たことはマラソンにも当てはまります。まともに走れない夏は自制心を保ち、地道に「原理(基本)」の体得に専念することが長い目で見ると近道なのですが、他のランナーの「実戦」を意識したメニューや走りに惑わされ、原理を体得する前に競い合う走り方をしてしまう。取り組む「層」が曖昧になってしまった悪い例です。 暑さに負けることなく追い込み練習をしたことで、ぐったりと疲労感に襲われる一方、充実感を得られることも確かです。ただ、その疲労感の大半は熱によるダメージです。走力向上はあまり期待できません。サウナに入ってぐったりしても走力向上は期待できないことを想像してみてください。必須の過程を省くことなく、地道に基礎力を高めることを重視したい 涼しくなる9月中旬以降、いよいよ冬のレースに向けた実戦練習に取り組むことになるでしょう。速いペースで長く走る練習です。その頃に今を振り返った際、「基本の体得に取り組んでよかった」と思えるようにしてもらいたいものです。質の高い練習(実戦練習)をしたり、頻度を高めて取り組んだりしても壊れない、基礎が身についた体をつくってください。 実は、6月に熱中症になりました(この件は改めて詳しく説明させてください)。ランニングの終盤は誰しも心拍、呼吸の数が上昇し、つらくなるものです。気をつけていただきたいのは、昨今の高温多湿の状況下での頑張りが「いつも通り」だったとしても、加齢に伴う体力の低下を考えると、その頑張りが自分の体にとっては耐えがたくなっているということです。これまでは「気持ち」「根性」で自分を奮い立たせることができたとしても、尋常でない暑さの中では話は別。思い切ってペースを落とす勇気が必要だと思います。 熱中症になった際、体の深層の体温が40度を超えるとはどういうことなのか? このことをかみしめてしばらく過ごしました。あくまで私の感覚ですが、体をロースターで焼かれたような感じになりました。筋繊維がひどく破壊されたのでしょう。踏ん張りが利かず、疲労が抜けにくくなりました。富士登山競走に向けて走り込んでいましたが、コツコツと積み上げるようにして培った体力の大半を失ったと感じています。また、食べたものの消化・吸収役を担う腸内細菌が死滅してしまったのかもしれません。食欲が落ち、気持ちの低迷が長引いたのでした。1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。エッセンシャル・マネジメント・スクール特別研究員。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195KM トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。



