ラグビー日本代表のメンタルコーチでスポーツ心理学者の荒木香織が語るメンタル論。厳しい勝負と競争の世界を生きるアスリートたちを勝利に導く指導者、キャプテン、それを陰でサポートするコーチから学べることは?
エディー・ジョーンズからの要請 最新の科学的知見を基盤に、トップアスリートへのメンタルパフォーマンストレーニングを行うスポーツ心理学者、荒木香織。過去7回のラグビーワールドカップ出場で、一度しか勝利がなかった日本代表に「勝利のメンタル」を植え付け、スポーツ史上、もっとも美しい“ジャイアントキリング”と評されることもある、あの南アフリカ戦の歴史的勝利をメンタルコーチとして支えたキーパーソンである。...
エディー・ジョーンズからの要請 最新の科学的知見を基盤に、トップアスリートへのメンタルパフォーマンストレーニングを行うスポーツ心理学者、荒木香織。過去7回のラグビーワールドカップ出場で、一度しか勝利がなかった日本代表に「勝利のメンタル」を植え付け、スポーツ史上、もっとも美しい“ジャイアントキリング”と評されることもある、あの南アフリカ戦の歴史的勝利をメンタルコーチとして支えたキーパーソンである。 そんな彼女が、今年、ラグビー日本代表のヘッドコーチに再任した世界的名将、エディー・ジョーンズからの要請を受け、再びメンタルコーチとしてスタッフに加わった。エディーから頼りにされるだけあって、荒木の主張は実に明快で切れ味が鋭い。たとえば、最近のアスリートが口にする「夢と感動を与えたい」という台詞。そして負けた選手による「国民の皆さんに申し訳ない」という謝罪を荒木は一刀両断する。「選手たちに『何のために競技をするのか』と聞いた時、一番返ってくるのが『今まで教えてもらった先生へ、恩返しのために勝ちたい』という答えです。中学や高校からそう聞いて育ったとは思うんですけれど、『他人のためではなく、まずは自分の何かのために出なければならない』と、私ははっきり言います。『それは正しくないですよ』と」 パリ五輪では、柔道女子で2連覇を逃した阿部詩が号泣する姿が賛否を集めたが、「その場面は見ていなかった」と前置きした上で、スポーツ心理学者として評した。「ショックだったんでしょう……。確かにかわいそうですよね。でも、私はたいがいの選手に『負けて泣くのは日本人だけだから、やめるように』と指導しています。勝っても負けても、とりあえず一礼して出てくる。とにかく人目に触れるところで泣いたり喜んだりするのはやめましょう、と伝えているのです」 負けて泣き崩れても、勝って喜び過ぎても、エネルギーを使いすぎて次に影響するというのが理由だ。 「人間の心は、単純に切り替えられないので、いかに早く忘れて、目の前のことにフォーカスできるかを考えないといけないんです。勝っても負けても、とりあえず『止めて、次に行く』ことを習慣化しておく必要がある。特にバレーボールやバスケットボールは短期間に4戦、5戦と続くので、結果に振り回されないように感情をコントロールする。『思考停止法』と言うんですけれど、次の場面や試合に影響させないためにも、必要以上に反応しない。喜ばない、悲しまない」 日本のスポーツ界では昭和の「根性論」も根強い。「死ぬ気で行く」「意地を見せる」といった使い古されたフレーズにも荒木ははっきりと否定的だ。 「まだそんな根性論でやっているのかと思ってしまいます。スポーツ医学や、心理学、栄養学などスポーツ科学が世界的に進化している中で、日本はあまりにも遅れ過ぎています」 メンタルが弱い、ということを指摘する指導者が多いが、これもあまりにも抽象的だ。 「メンタルは強い・弱いではなく、『自分が成し遂げたい』と思うことに向かい、乗り越えるというよりは、うまく挑戦し続けることができるか。そこが大事なのです。充実感や満足感など、自分自身が『いろいろなことを達成できているなあ』という感覚を得ながら過ごしていけるかどうか、だと思います。メンタルは鍛えられるんです」 気持ちが優しいとされる若い世代の選手を積極的に起用しているエディー・ジャパンが「勝利のメンタル」をどう継承するのか。荒木の手腕に大いに期待したい。 Fight Song オーヴァージョイド/スティーヴィー・ワンダー 歌詞が好きでよく聴いています。思考や気持ちをコントロールするのは難しいですが、音楽を聴くとスイッチを切り替えやすいんです。また、スペイン語の曲を聴くことが多いです。英語だと意味が理解できてしまいますが、スペイン語は半分わからないところがいいんですよね。 KAORI ARAKI Ph.D.、スポーツ心理学者。株式会社CORAZONチーフコンサルタント、順天堂大学スポーツ健康科学部客員教授。スポーツや健康に関する心理学を専門とし、アスリート、アーティスト、ビジネスパーソンなどのメンタルトレーニングを行う。ラグビー男子日本代表(2024年~)のメンタルコーチを務める。 PHOTOGRAPH BY KUNIHIRO FUKUMORI WORDS BY YUKIKO UMETSU
スポーツ心理学 / Sport Psychology メンタルヘルス / Mental Health エディ・ジョーンズ / Eddie Jones Akira Kamiya
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