ファントムクーペの精神をEVによって高めたスペクター。 ロールス・ロイス初のEVである「スペクター」に乗った。この巨大なクーペは完全な電動化によって、あえてロールスを選ぶ人たちが、ステアリングを握る時...
それはスペクター(亡霊)という名前が示す通り、この世のモノならざる領域を感じさせること。闇夜を疾走する絢爛とした馬車に必要なのは、電気による動力であったことがわかる。電動化は ロールス・ロイス 創業以来の宿願。にもかかわらず、このクルマには大幅に路線を変えたり未来志向の内装にしたりといった、進化につきものの熱狂はまったく感じられない。価格帯からすればフラグシップのファントムとSUVであるカリナンの中間に位置する、玄人好みの2ドアクーペ。そのEV化初のモデルが「後部座席のオーナーのために用意したクルマではない」ということがとても重要なんだ。
EV化したロールス・ロイスの進化を最も理解できるのは、自らステアリングを握るドライバーに他ならない。ブランド最大サイズとなるエフォートレス・ドアを開けると、ひと際存在感を放つドライバーズシートが現れる。 肉厚のシートに沈み込むように座りアクセルに足をのせると、巨大な車体が無音で動き出す。さらに踏み込むとじわじわ湧き出るようにトルクが立ち上がり、車体の動きは海原を滑るヨットのように優雅だ。包み込むようなシート圧にボディのゆれが連動し、スペクターのドライバビリティをさらに際立たせる。ゴーストやファントムでも採用されたオール・アルミニウム製のスペースフレーム「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」に、バッテリーを搭載する車両構造が一体化することにより剛性が向上。バッテリーは遮音材としても機能し、静音効果を高めている。路面の荒れや、他車を抜き去る時のかすかなノイズなどの情報を、まるで机を軽く指で叩くようなさりげなさで伝えてくるんだ。
乗った当日は台風並みの暴風が吹き荒れていたんだけど、車内は水を打ったように静まり返っていたのね。それを最も実感したのが、ガレージを出る前と帰庫した瞬間。そこで“無音のゼロ”ともいうべき時間に包まれたんだ。 このゼロは、ロールスが意識的にスペクターに設けた回帰点。たとえば、アクセルを踏むとかすかな音色の変化とともにゆっくりと加速が高まっていき、ブレーキを踏むと軽い制動音とともにゼロに戻る。特に信号待ちで停車した時の、車内に回帰してくるゼロの感覚には鳥肌が立ったね。世界でひとりだけ魔法のシートに座り、別世界を旅する。その瞬間、ドライバーは幸福な孤独を感じる。これまでのロールス・ロイスがそうだったように、ゼロへの回帰点も含めて、イメージされているのは特別な世界。これこそ、臨死体験なのかもしれないって思ったんだ。
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