『WIRED』は、生成AIを使って“一見本物らしいが低品質”な動画を量産しているYouTubeチャンネルを100以上特定した。そして偽物だとわかるはずのこれらの動画に、視聴者が騙されてしまう背景を探った。
マーク・ウォールバーグはネクタイを整え、トーク番組『The View』 での待望のインタビューを前に、笑顔を浮かべて席につく。しかし、司会のジョイ・ベハーの不自然な様子にすぐさま違和感を覚える。ベハーの視線は落ち着かず、疑わしく、獲物を狙うような不気味ささえ漂わせている。やがてウォールバーグは、心の弱みを突くべハーの残酷な侮辱の連打にさらされる。だがそれでも崩れない。ベハーが「舞台から降りろ!」と叫んでも冷静さを失わず、毅然と告げる。「僕は出て行く。でもそれは、あなたに追い出されるからじゃない。自分を尊重しているからだ。礼儀を失った人間に虐げられながら、ここに座っているつもりはない」 観客は呆然とし、YouTubeで観ていた視聴者たちはコメント欄で一斉にウォールバーグを励ます。「さすがマーク、大好き!」「『The View』なんて放送禁止にすべきだ」「出演者全員で訴えて、制作費が尽きるまで損害賠償を請求してほしい」──怒りの言葉が飛び交った。 米国のテレビ史に残る“伝説のシーン”とまで称されたが、現実にはウォールバーグが『The View』に出演したのは2015年が最後。それ以降、番組に出た事実はない。つまりこの一幕は、25分にわたるファンフィクション風のAI生成動画の中で描かれただけの出来事だったのだ。だが、この映像は46万人もの視聴者を欺いた可能性がある。ネットを覆う「AIスロップ」(AIで生成された低品質なコンテンツ)の波は、すでに取り締まりが追いつかないレベルに達している。しかも最近の動画はあまりに精巧で、メディアリテラシーに長けたZ世代ですら簡単に騙されてしまうほどだ。 しかし、実際にはこの“対決劇”は、動画でさえないのだ。動画の題名は“Mark Wahlberg Kicked Off The View After Fiery Showdown With Joy Behar” (ジョイ・ベハーとの激突でマーク・ウォールバーグが『The View』を追い出された)だが、映像は静止画に粗いフィルターをかけただけのもの。視聴者を引き込むのは、AIナレーションが読み上げる大規模言語モデル(LLM)が書いたクリシェだらけの脚本──「拳を握りしめるような」「あごが震えるような」といった大げさな表現が並ぶ。安っぽく、人間味のかけらもなく、まさにAIスロップの見本そのものだ。それにもかかわらず、配信元の「Talk Show Gold」には8万8千人以上の登録者が集まり、コメント欄で「これはフェイクニュースだ」と指摘されても頑なに信じ続ける視聴者が少なくない。 “ディープ”ではなく”チープ” 「実在する画像や映像を寄せ集め、そこに簡単なAI音声と字幕をつけただけの動画は、ディープフェイクというより“チープフェイク”と呼ぶべきです」と語るのは、ブリストル大学で生成AIの偽情報を研究する認知心理学者サイモン・クラークだ。「表面的には、こんなものに人が騙されるなんて驚きかもしれません。しかし心理学的に見れば、理由は明快です。この種の動画は、感情に訴えかける修辞的なテクニックに大きく依存し、視聴者が批判的に考える力を手放すよう仕向けているのです」 『WIRED』の調査では、同じ手口を使っているYouTubeチャンネルが少なくとも120存在していた。たとえば「Starfame」「Media Buzz」「Celebrity Scoop」といった誤解を招く名前を使い、『Jimmy Kimmel Live!』や『Today With Jenna & Friends』といった本物の総集編クリップに紛れ込むことで信頼性を装っている。チャンネルの説明文もタブロイド紙的な大げささを演出しており、「最高のハイライト」「最も忘れられない瞬間」「爆笑の瞬間」「象徴的な瞬間」といったような売り文句の長文の中にAI利用の但し書きを埋め込むケースもあれば、そもそも記載しないことで演出を強める場合もある。 YouTubeは7月15日、生成AIを用いたコンテンツを規制するためポリシーを更新した。ヘルプセンターには「YouTube で収益を得るには、コンテンツがオリジナルかつ『本物』である必要」があると記されているが、生成AIについての直接的な記述はない。ただ「オリジナルの著作物であること」であること、「大量生産されたコンテンツや繰り返しの多いコンテンツでないこと」といった一般的な条件が示されているにすぎない。さらに「改変コンテンツまたは合成コンテンツの使用に関する開示」という別のポリシーでは、コンテンツが「実在の人物が実際には発言または行動していないことを、発言または行動しているように見せている」「実際の出来事や場所の映像を改変している」「実際には起きていない場面が現実のように見えるコンテンツを生成している」場合には、必ずその旨を開示しなければならないと定めている。 怒りを煽る仕掛け 『WIRED』は、100を超える有名人の顔を使ったAI生成チャンネルについてYouTubeにコメントを求め、新しいポリシーがどのように適用されるのかを確認した。 「YouTubeにアップロードされるすべてのコンテンツは、生成方法にかかわらずコミュニティガイドラインに準拠しなければなりません。ポリシー違反を確認した場合は削除します」と、YouTube EMEA(欧州・中東・アフリカ)広報ディレクターのゼイナ・アストンは『WIRED』への声明で述べた。さらに彼女は、誤解を招くメタデータ、タイトル、サムネイルを用いた欺瞞的手法もプラットフォーム上で認められていないと強調した。 また、『WIRED』は「Celebrity Central」「United News」など、AI利用を明記していないセレブ系トークショーやファンフィクション風チャンネル37件が削除されていることを確認した。 こうした動画の筋書きは決まって同じパターンを踏襲している。人気俳優──クリント・イーストウッド、デンゼル・ワシントン、キアヌ・リーブスといった年配の男性俳優が“ヒーロー”役を担い、会話を人格攻撃に持ち込むリベラル系トークショー司会者が“悪役”を務める。誰に共感してほしいのかは明らかで、右派的で年齢層の高い視聴者が“ビジュアル版ファンフィクション”のご都合主義キャラに仕立てられているのだ。標的の選び方にも政治的な意図が見え隠れし、政治家のみを扱った動画がひとつのサブジャンルを形成しているほどだ。 ワシントン自身も最近『WIRED』に語っている。「わたしの声をいじってるか、あるいは自分たちの声をいじってわたしの声のようにしているんです。でもあれは自分ではありません。InstagramもTikTokも何もやっていませんから。だからそこで聞こえる声には、わたしのものはひとつありません。残念ながら、人々はそれを信じてしまう。それがいまの世界です」 心理学者サイモン・クラークにとって、こうしたトークショー動画は明確に「怒りを引き出す装置」だ。怒りによって人々は動画に深く関与し、拡散に加担する。「エンゲージメントを狙うなら、怒りほど強力な感情はありません。悲しみや傷は内にとどまりがちですが、怒りは共有や長文コメントを誘発します」とクラークは説明する。出来事が実際に起きていなくても、あるいは「AI生成」と明記されていてさえ、キャラクターが“そう振る舞いそう”と思えれば十分なのだ。しかもYouTubeのエコシステム自体が、運転中、片付け中、眠る直前など、受動的な視聴を促す。そのため、AI生成コンテンツは磨かれていなくても受け入れられやすいのだ。 ディープフェイク検出企業Reality Defenderも複数の動画を検証した。同社最高経営責任者(CEO)のベン・コールマンはこう語る。「私たちの家族や友人(特に高齢層)がこうした動画を見て、完全に信じ込んだわけではないにせよ、本物かどうか確かめるために私たちに相談してきたことがあります」 『WIRED』はさらにこれらのチャンネルにもコメントを求めたが、応じたクリエイターはひとりだけだった。登録者数4万3,000人のチャンネルを運営するこのクリエイターは、匿名を条件に語った。 「私はフィクションのインタビューを作っているだけで、そのことは必ず動画の説明欄に明記しています。フィクション形式を選んだのは、ストーリー性や創造性に少しのリアリズムを組み合わせられるからです。まるで現実を目撃しているかのような没入感を与えられるし、その感情的リアリズムこそが人を引き込む。『もしも』のシナリオを提示することで、ドラマチックで激しく、驚きをもたらす体験を作り出せる一方で、それが完全なフィクションであることに変わりはありません」 チープフェイクの経済 これらのチャンネルの背後にある制作の動機を考えると、政治的な面ややストーリー性へだけでは説明がつかない。実際には、より露骨な金銭目的が浮かび上がっている。たとえば「earningmafia」という言葉を使ったメールアドレスを持つチャンネルが確認されており、同じクリエイターが複数のチャンネルを運営している例もある。そのなかには関連チャンネルが停止されたものもあり、営利性の強い重複的・反復的な動画制作が行われていることは明白だ。 こうした動きは驚くべきことではない。生成AIの台頭とともにYouTube上でコンテンツファームが増加し、とりわけ弱者を狙った形で定着しつつある。クリエイターは例外なく、子ども向けキャラクターを不適切な状況に置いたり、ショーン・コムズの裁判のような物議を醸すトピックを選び、できる限り多くのエンゲージメントと収益を稼ごうとしている。 オックスフォード大学のサンドラ・ワクター教授は、この「レイジベイト(怒りを誘う)」コンテンツこそがプラットフォームのビジネスモデルの中心にあると指摘する。「プラットフォームにできるだけ長く滞在させることが狙いです。人を惹きつけるのは美しいものや楽しいものではなく、扇情的で有害で、怒りをかき立てるものです。そして、そうしたコンテンツはいまやAIで非常に安く、数分で作れるようになりました」 ほとんどのチャンネルは所在地を米国外としているものの、登場する有名人はほとんどステレオタイプ的に「アメリカ的」で、まるで「人気のある米国俳優リスト」から選ばれ、それにすぐに飛びつく(つまり収益性の高い)ネットの住民たちを狙っているかのようだ。『WIRED』が確認したいくつかのチャンネルは、この数年で大きく方向転換しているようにも見えた。かつては自動車や農業、フィットネスに関する教育コンテンツを投稿していたが、AIブーム以降はそうした内容を放棄したように見える。これは、視聴者を長期滞在させるクリエイターを優遇するアルゴリズムを利用しようとする試みか、あるいは収入減を補うため、盲目的にトレンドへ従っている兆候とも考えられる。 ワクター教授はYouTubeの新ポリシーによる収益化停止措置が一定の効果を持つことを期待しながらも、「問題の根本にはまだ到達していない」と指摘する。「クリックを稼ぎ、人々の目を画面に釘付けにすることを前提とした仕組みそのものが、有害性を生むシステムなのです」 実際、こうしたチャンネルが再び現れるのは時間の問題だ。その手口は特殊効果や高度な技術に依存せず、むしろ古典的な心理的テクニックをYouTubeという環境に合わせて組み合わせることで、ある種の人々にとっての”現実味”を演出している。リアリズムを求めない視聴層に訴えかけ、そこから得られる再生数を収益化する。その目的は怒りを煽り、議論を引き起こし、道徳的憤りを刺激すること。労力は最小限で済む。言い換えれば、それは人間のコンテンツを精密に複製しようとする機械的欲望と、「まあこれで十分だろう」とする人間特有の無関心の間に生まれる、不気味な交差点を示している現象だ。 ※『WIRED』によるYouTubeに関する記事はこちら。生成AIに関する記事はこちら。 Related Articles 従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。.
マーク・ウォールバーグはネクタイを整え、トーク番組『The View』 での待望のインタビューを前に、笑顔を浮かべて席につく。しかし、司会のジョイ・ベハーの不自然な様子にすぐさま違和感を覚える。ベハーの視線は落ち着かず、疑わしく、獲物を狙うような不気味ささえ漂わせている。やがてウォールバーグは、心の弱みを突くべハーの残酷な侮辱の連打にさらされる。だがそれでも崩れない。ベハーが「舞台から降りろ!」と叫んでも冷静さを失わず、毅然と告げる。「僕は出て行く。でもそれは、あなたに追い出されるからじゃない。自分を尊重しているからだ。礼儀を失った人間に虐げられながら、ここに座っているつもりはない」 観客は呆然とし、YouTubeで観ていた視聴者たちはコメント欄で一斉にウォールバーグを励ます。「さすがマーク、大好き!」「『The View』なんて放送禁止にすべきだ」「出演者全員で訴えて、制作費が尽きるまで損害賠償を請求してほしい」──怒りの言葉が飛び交った。 米国のテレビ史に残る“伝説のシーン”とまで称されたが、現実にはウォールバーグが『The View』に出演したのは2015年が最後。それ以降、番組に出た事実はない。つまりこの一幕は、25分にわたるファンフィクション風のAI生成動画の中で描かれただけの出来事だったのだ。だが、この映像は46万人もの視聴者を欺いた可能性がある。ネットを覆う「AIスロップ」(AIで生成された低品質なコンテンツ)の波は、すでに取り締まりが追いつかないレベルに達している。しかも最近の動画はあまりに精巧で、メディアリテラシーに長けたZ世代ですら簡単に騙されてしまうほどだ。 しかし、実際にはこの“対決劇”は、動画でさえないのだ。動画の題名は“Mark Wahlberg Kicked Off The View After Fiery Showdown With Joy Behar” (ジョイ・ベハーとの激突でマーク・ウォールバーグが『The View』を追い出された)だが、映像は静止画に粗いフィルターをかけただけのもの。視聴者を引き込むのは、AIナレーションが読み上げる大規模言語モデル(LLM)が書いたクリシェだらけの脚本──「拳を握りしめるような」「あごが震えるような」といった大げさな表現が並ぶ。安っぽく、人間味のかけらもなく、まさにAIスロップの見本そのものだ。それにもかかわらず、配信元の「Talk Show Gold」には8万8千人以上の登録者が集まり、コメント欄で「これはフェイクニュースだ」と指摘されても頑なに信じ続ける視聴者が少なくない。 “ディープ”ではなく”チープ” 「実在する画像や映像を寄せ集め、そこに簡単なAI音声と字幕をつけただけの動画は、ディープフェイクというより“チープフェイク”と呼ぶべきです」と語るのは、ブリストル大学で生成AIの偽情報を研究する認知心理学者サイモン・クラークだ。「表面的には、こんなものに人が騙されるなんて驚きかもしれません。しかし心理学的に見れば、理由は明快です。この種の動画は、感情に訴えかける修辞的なテクニックに大きく依存し、視聴者が批判的に考える力を手放すよう仕向けているのです」 『WIRED』の調査では、同じ手口を使っているYouTubeチャンネルが少なくとも120存在していた。たとえば「Starfame」「Media Buzz」「Celebrity Scoop」といった誤解を招く名前を使い、『Jimmy Kimmel Live!』や『Today With Jenna & Friends』といった本物の総集編クリップに紛れ込むことで信頼性を装っている。チャンネルの説明文もタブロイド紙的な大げささを演出しており、「最高のハイライト」「最も忘れられない瞬間」「爆笑の瞬間」「象徴的な瞬間」といったような売り文句の長文の中にAI利用の但し書きを埋め込むケースもあれば、そもそも記載しないことで演出を強める場合もある。 YouTubeは7月15日、生成AIを用いたコンテンツを規制するためポリシーを更新した。ヘルプセンターには「YouTube で収益を得るには、コンテンツがオリジナルかつ『本物』である必要」があると記されているが、生成AIについての直接的な記述はない。ただ「オリジナルの著作物であること」であること、「大量生産されたコンテンツや繰り返しの多いコンテンツでないこと」といった一般的な条件が示されているにすぎない。さらに「改変コンテンツまたは合成コンテンツの使用に関する開示」という別のポリシーでは、コンテンツが「実在の人物が実際には発言または行動していないことを、発言または行動しているように見せている」「実際の出来事や場所の映像を改変している」「実際には起きていない場面が現実のように見えるコンテンツを生成している」場合には、必ずその旨を開示しなければならないと定めている。 怒りを煽る仕掛け 『WIRED』は、100を超える有名人の顔を使ったAI生成チャンネルについてYouTubeにコメントを求め、新しいポリシーがどのように適用されるのかを確認した。 「YouTubeにアップロードされるすべてのコンテンツは、生成方法にかかわらずコミュニティガイドラインに準拠しなければなりません。ポリシー違反を確認した場合は削除します」と、YouTube EMEA(欧州・中東・アフリカ)広報ディレクターのゼイナ・アストンは『WIRED』への声明で述べた。さらに彼女は、誤解を招くメタデータ、タイトル、サムネイルを用いた欺瞞的手法もプラットフォーム上で認められていないと強調した。 また、『WIRED』は「Celebrity Central」「United News」など、AI利用を明記していないセレブ系トークショーやファンフィクション風チャンネル37件が削除されていることを確認した。 こうした動画の筋書きは決まって同じパターンを踏襲している。人気俳優──クリント・イーストウッド、デンゼル・ワシントン、キアヌ・リーブスといった年配の男性俳優が“ヒーロー”役を担い、会話を人格攻撃に持ち込むリベラル系トークショー司会者が“悪役”を務める。誰に共感してほしいのかは明らかで、右派的で年齢層の高い視聴者が“ビジュアル版ファンフィクション”のご都合主義キャラに仕立てられているのだ。標的の選び方にも政治的な意図が見え隠れし、政治家のみを扱った動画がひとつのサブジャンルを形成しているほどだ。 ワシントン自身も最近『WIRED』に語っている。「わたしの声をいじってるか、あるいは自分たちの声をいじってわたしの声のようにしているんです。でもあれは自分ではありません。InstagramもTikTokも何もやっていませんから。だからそこで聞こえる声には、わたしのものはひとつありません。残念ながら、人々はそれを信じてしまう。それがいまの世界です」 心理学者サイモン・クラークにとって、こうしたトークショー動画は明確に「怒りを引き出す装置」だ。怒りによって人々は動画に深く関与し、拡散に加担する。「エンゲージメントを狙うなら、怒りほど強力な感情はありません。悲しみや傷は内にとどまりがちですが、怒りは共有や長文コメントを誘発します」とクラークは説明する。出来事が実際に起きていなくても、あるいは「AI生成」と明記されていてさえ、キャラクターが“そう振る舞いそう”と思えれば十分なのだ。しかもYouTubeのエコシステム自体が、運転中、片付け中、眠る直前など、受動的な視聴を促す。そのため、AI生成コンテンツは磨かれていなくても受け入れられやすいのだ。 ディープフェイク検出企業Reality Defenderも複数の動画を検証した。同社最高経営責任者(CEO)のベン・コールマンはこう語る。「私たちの家族や友人(特に高齢層)がこうした動画を見て、完全に信じ込んだわけではないにせよ、本物かどうか確かめるために私たちに相談してきたことがあります」 『WIRED』はさらにこれらのチャンネルにもコメントを求めたが、応じたクリエイターはひとりだけだった。登録者数4万3,000人のチャンネルを運営するこのクリエイターは、匿名を条件に語った。 「私はフィクションのインタビューを作っているだけで、そのことは必ず動画の説明欄に明記しています。フィクション形式を選んだのは、ストーリー性や創造性に少しのリアリズムを組み合わせられるからです。まるで現実を目撃しているかのような没入感を与えられるし、その感情的リアリズムこそが人を引き込む。『もしも』のシナリオを提示することで、ドラマチックで激しく、驚きをもたらす体験を作り出せる一方で、それが完全なフィクションであることに変わりはありません」 チープフェイクの経済 これらのチャンネルの背後にある制作の動機を考えると、政治的な面ややストーリー性へだけでは説明がつかない。実際には、より露骨な金銭目的が浮かび上がっている。たとえば「earningmafia」という言葉を使ったメールアドレスを持つチャンネルが確認されており、同じクリエイターが複数のチャンネルを運営している例もある。そのなかには関連チャンネルが停止されたものもあり、営利性の強い重複的・反復的な動画制作が行われていることは明白だ。 こうした動きは驚くべきことではない。生成AIの台頭とともにYouTube上でコンテンツファームが増加し、とりわけ弱者を狙った形で定着しつつある。クリエイターは例外なく、子ども向けキャラクターを不適切な状況に置いたり、ショーン・コムズの裁判のような物議を醸すトピックを選び、できる限り多くのエンゲージメントと収益を稼ごうとしている。 オックスフォード大学のサンドラ・ワクター教授は、この「レイジベイト(怒りを誘う)」コンテンツこそがプラットフォームのビジネスモデルの中心にあると指摘する。「プラットフォームにできるだけ長く滞在させることが狙いです。人を惹きつけるのは美しいものや楽しいものではなく、扇情的で有害で、怒りをかき立てるものです。そして、そうしたコンテンツはいまやAIで非常に安く、数分で作れるようになりました」 ほとんどのチャンネルは所在地を米国外としているものの、登場する有名人はほとんどステレオタイプ的に「アメリカ的」で、まるで「人気のある米国俳優リスト」から選ばれ、それにすぐに飛びつく(つまり収益性の高い)ネットの住民たちを狙っているかのようだ。『WIRED』が確認したいくつかのチャンネルは、この数年で大きく方向転換しているようにも見えた。かつては自動車や農業、フィットネスに関する教育コンテンツを投稿していたが、AIブーム以降はそうした内容を放棄したように見える。これは、視聴者を長期滞在させるクリエイターを優遇するアルゴリズムを利用しようとする試みか、あるいは収入減を補うため、盲目的にトレンドへ従っている兆候とも考えられる。 ワクター教授はYouTubeの新ポリシーによる収益化停止措置が一定の効果を持つことを期待しながらも、「問題の根本にはまだ到達していない」と指摘する。「クリックを稼ぎ、人々の目を画面に釘付けにすることを前提とした仕組みそのものが、有害性を生むシステムなのです」 実際、こうしたチャンネルが再び現れるのは時間の問題だ。その手口は特殊効果や高度な技術に依存せず、むしろ古典的な心理的テクニックをYouTubeという環境に合わせて組み合わせることで、ある種の人々にとっての”現実味”を演出している。リアリズムを求めない視聴層に訴えかけ、そこから得られる再生数を収益化する。その目的は怒りを煽り、議論を引き起こし、道徳的憤りを刺激すること。労力は最小限で済む。言い換えれば、それは人間のコンテンツを精密に複製しようとする機械的欲望と、「まあこれで十分だろう」とする人間特有の無関心の間に生まれる、不気味な交差点を示している現象だ。 ※『WIRED』によるYouTubeに関する記事はこちら。生成AIに関する記事はこちら。 Related Articles 従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。
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