アラフィフともなると、夫婦それぞれの親の介護がのしかかってくる。親が長生きするのは一般的には喜ばしいことだが、必ずしもそれが自分の家庭の平和とは結びつかないこともあるのかもしれない。穏やかな夫婦生活を...
アラフィフともなると、夫婦それぞれの親の介護がのしかかってくる。親が長生きするのは一般的には喜ばしいことだが、必ずしもそれが自分の家庭の平和とは結びつかないこともあるのかもしれない。■穏やかな夫婦生活を送っていたが「37歳のとき結婚しました。互いに好きな仕事をしているので、子どもに関しては、最初から自然に任せるつもりだった。結局、子どもはできず、猫2匹と“4人家族”で穏やかに暮らしてきました」そう言うのはダイゴさん(53歳)だ。同い年の妻とは20年来の付き合いだが、過去、一度もケンカをしたことがないという。二人とも「ケンカはムダ」だと一致していたからだ。その代わり、毎日、いろいろなことを話すし連絡もとる。仕事が忙しい時期でも、妻との会話があるからこそ頑張れると彼は信じていた。「互いに相手の実家にも時々一緒に訪ねていました。妻は今も両親が健在ですが、僕の方は3年前に父が他界、母が一人暮らしになったんです」■孤立していた母当初、母は元気に一人暮らしを楽しんでいた。ところが半年ほどたつうちに、妻が「お義母さん、ちょっと様子がおかしいわよ」と言い出した。「気が強い人だから元気を装っているけど、実はすごく寂しいのではないか、話し相手がいないのではないかと妻が言う。そんなことはないと思うと僕は言いました。近所の人だって長年の顔見知りだし、趣味の教室で知り合った友達と旅行をしたなんていう話も聞いていたから。でも妻は『それは以前の話で、最近は誰とも会ってないんじゃないかしら』って。母に聞いても『一人で大丈夫』と言い張るし。しばらくたってから、連絡なしで突然、実家を訪ねてみたんです。そうしたら母は何をするでもなく、一人でぼうっと座っていた。ちゃんと話してほしいと言うと、いろいろ行き違いがあって近所の人とは疎遠になった。趣味の教室もやめてしまったというんです」どうやら母の気の強さが災いして、みんなから距離を置かれていたというのが真実らしい。昔から気は強かったが、年をとってそこに自己中心的な面が強くなっていたようだ。■骨折から同居へそれからすぐ、母は家で転倒、足を骨折して入院した。自ら救急車を要請したようだ。「手術、リハビリをして、少し不自由はあるけど身の回りのことは自分でできる状態になったので退院したんですが、妻が『一緒に暮らしてもらったら?』と。僕からは言いづらかったけど、妻からそう言ってくれたのは本当にありがたかった。だから母にもきちんと因果を含めて、あまり妻を困らせないようにと約束させて迎えたんです」妻は母にやさしく、辛抱強く接してくれた。母が自分でできることは見守り、できなければ手を貸す。よくここまでじっくり付き合えるなとダイゴさんが感心するほどだった。「80代に入って、認知症の診断は受けていませんが、やはり物忘れがひどくなったり、言ったことを言わないと主張したり、とにかく付き合いづらい。妻は在宅で仕事をしているので、仕事中もやたらと呼ばれたり、どうでもいいことをわざわざ仕事部屋まで来て話したりするらしいんですよ。それでも妻は穏やかに付き合っていた」だがあるとき、妻がいないときに母はダイゴさんに泣きながら愚痴をこぼした。「あんたの嫁さんはきついね。この前は『早くくたばれって言われた』と。まさか妻がそんなことを言うはずはないと思ったけど母にそう言われれば、もしかしたらと思うじゃないですか」■連絡せずに帰宅してみるとあるとき出勤したダイゴさんは、急に体調を崩し、病院に寄って午後は休むことにした。ちょうどいい、連絡せずに帰宅してみようと彼は思った。帰宅してみると、玄関で母の金切り声が聞こえた。「あんたなんか、うちの息子を騙して結婚したんでしょ、あんないい子があんたみたいな女に取り込まれるなんて、とか何とか言っていました。妻は『お義母さん、誤解だから。落ち着いて』となだめていたけど、『バカにしないで』と母は突っぱねている。そこへ僕が顔を見せたら、二人ともいきなり黙りました。今のは何なんだと母に聞くと、『何でもないわよ、どうしてあんたが家にいるの』と」ダイゴさんが妻に聞くと、日に1度はあのように罵詈(ばり)雑言を浴びせられることが続いていたという。何が気に入らないのか、ストレス発散に趣味を勧めてみても受けつけない、デイサービスへ行ってみたらと言っても拒否。結局、妻が母のストレスを一手に引き受けていたわけだ。■妻との生活が第一「それを知って、妻に本当に申し訳ないと思った。母は僕の前では妻とも普通に話していたから、まったく気づかなかったんです。これは母の性格上の問題。このままだと妻が壊れてしまう。だから僕はすぐに母を施設に入れようとしました。妻は反対していたけど、母のためにも今の状態はよくないと思って」いろいろな施設を見に行き、母を体験入居させてじっくり検討してから決めた。妻は何も言わないが、施設に行くことが決まってからも母はかなり妻に汚い言葉を吐いたようだ。「僕にとっては妻との生活が第一。その決意と覚悟が決まりましたね。母のところには週に1、2回は面会に行っています。母も今は落ち着いて生活できている。親戚からは母親を捨てるのかと言われたけど、どう思われてもかまわない」同居しようと言ってくれた妻の気持ちを考えると、こうなった今も、妻には申し訳ない気持ちが強いと、ダイゴさんはせつなそうに言った。▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。.
アラフィフともなると、夫婦それぞれの親の介護がのしかかってくる。親が長生きするのは一般的には喜ばしいことだが、必ずしもそれが自分の家庭の平和とは結びつかないこともあるのかもしれない。■穏やかな夫婦生活を送っていたが「37歳のとき結婚しました。互いに好きな仕事をしているので、子どもに関しては、最初から自然に任せるつもりだった。結局、子どもはできず、猫2匹と“4人家族”で穏やかに暮らしてきました」そう言うのはダイゴさん(53歳)だ。同い年の妻とは20年来の付き合いだが、過去、一度もケンカをしたことがないという。二人とも「ケンカはムダ」だと一致していたからだ。その代わり、毎日、いろいろなことを話すし連絡もとる。仕事が忙しい時期でも、妻との会話があるからこそ頑張れると彼は信じていた。「互いに相手の実家にも時々一緒に訪ねていました。妻は今も両親が健在ですが、僕の方は3年前に父が他界、母が一人暮らしになったんです」■孤立していた母当初、母は元気に一人暮らしを楽しんでいた。ところが半年ほどたつうちに、妻が「お義母さん、ちょっと様子がおかしいわよ」と言い出した。「気が強い人だから元気を装っているけど、実はすごく寂しいのではないか、話し相手がいないのではないかと妻が言う。そんなことはないと思うと僕は言いました。近所の人だって長年の顔見知りだし、趣味の教室で知り合った友達と旅行をしたなんていう話も聞いていたから。でも妻は『それは以前の話で、最近は誰とも会ってないんじゃないかしら』って。母に聞いても『一人で大丈夫』と言い張るし。しばらくたってから、連絡なしで突然、実家を訪ねてみたんです。そうしたら母は何をするでもなく、一人でぼうっと座っていた。ちゃんと話してほしいと言うと、いろいろ行き違いがあって近所の人とは疎遠になった。趣味の教室もやめてしまったというんです」どうやら母の気の強さが災いして、みんなから距離を置かれていたというのが真実らしい。昔から気は強かったが、年をとってそこに自己中心的な面が強くなっていたようだ。■骨折から同居へそれからすぐ、母は家で転倒、足を骨折して入院した。自ら救急車を要請したようだ。「手術、リハビリをして、少し不自由はあるけど身の回りのことは自分でできる状態になったので退院したんですが、妻が『一緒に暮らしてもらったら?』と。僕からは言いづらかったけど、妻からそう言ってくれたのは本当にありがたかった。だから母にもきちんと因果を含めて、あまり妻を困らせないようにと約束させて迎えたんです」妻は母にやさしく、辛抱強く接してくれた。母が自分でできることは見守り、できなければ手を貸す。よくここまでじっくり付き合えるなとダイゴさんが感心するほどだった。「80代に入って、認知症の診断は受けていませんが、やはり物忘れがひどくなったり、言ったことを言わないと主張したり、とにかく付き合いづらい。妻は在宅で仕事をしているので、仕事中もやたらと呼ばれたり、どうでもいいことをわざわざ仕事部屋まで来て話したりするらしいんですよ。それでも妻は穏やかに付き合っていた」だがあるとき、妻がいないときに母はダイゴさんに泣きながら愚痴をこぼした。「あんたの嫁さんはきついね。この前は『早くくたばれって言われた』と。まさか妻がそんなことを言うはずはないと思ったけど母にそう言われれば、もしかしたらと思うじゃないですか」■連絡せずに帰宅してみるとあるとき出勤したダイゴさんは、急に体調を崩し、病院に寄って午後は休むことにした。ちょうどいい、連絡せずに帰宅してみようと彼は思った。帰宅してみると、玄関で母の金切り声が聞こえた。「あんたなんか、うちの息子を騙して結婚したんでしょ、あんないい子があんたみたいな女に取り込まれるなんて、とか何とか言っていました。妻は『お義母さん、誤解だから。落ち着いて』となだめていたけど、『バカにしないで』と母は突っぱねている。そこへ僕が顔を見せたら、二人ともいきなり黙りました。今のは何なんだと母に聞くと、『何でもないわよ、どうしてあんたが家にいるの』と」ダイゴさんが妻に聞くと、日に1度はあのように罵詈(ばり)雑言を浴びせられることが続いていたという。何が気に入らないのか、ストレス発散に趣味を勧めてみても受けつけない、デイサービスへ行ってみたらと言っても拒否。結局、妻が母のストレスを一手に引き受けていたわけだ。■妻との生活が第一「それを知って、妻に本当に申し訳ないと思った。母は僕の前では妻とも普通に話していたから、まったく気づかなかったんです。これは母の性格上の問題。このままだと妻が壊れてしまう。だから僕はすぐに母を施設に入れようとしました。妻は反対していたけど、母のためにも今の状態はよくないと思って」いろいろな施設を見に行き、母を体験入居させてじっくり検討してから決めた。妻は何も言わないが、施設に行くことが決まってからも母はかなり妻に汚い言葉を吐いたようだ。「僕にとっては妻との生活が第一。その決意と覚悟が決まりましたね。母のところには週に1、2回は面会に行っています。母も今は落ち着いて生活できている。親戚からは母親を捨てるのかと言われたけど、どう思われてもかまわない」同居しようと言ってくれた妻の気持ちを考えると、こうなった今も、妻には申し訳ない気持ちが強いと、ダイゴさんはせつなそうに言った。▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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