ジェニファー・ダウドナは、AIがCRISPRの力をさらに引き出し、医療、農業、気候変動などの分野に革新をもたらすと予測する。
世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。 ジェニファー・ダウドナ は自身が共同で開発した ゲノム編集 技術「 CRISPR 」の影響力が、人工知能（AI）ツールによってますます高まると確信する。2025年、AIと機械学習によって、医療、農業、 気候変動 、そしてこれらの分野を支える基本研究における ゲノム編集 技術「 CRISPR 」の影響力はますます高まるだろう。
特筆すべきは、AI分野がこのような大きな期待に満ち溢れていることだ。主要な新技術の進歩には必ずハイプサイクルがあり、わたしたちはいまそのただなかにいる。実際には多くの場合、AIの恩恵を受けられるのは数年先の未来だろう。でも、ゲノミクスや生命科学研究では、まさにいまAIがもたらす現実的な効果を次々と目の当たりにしているのだ。わたしの専門であるCRISPRによるゲノム編集や、さらに範囲の広いゲノミクスでは、しばしば膨大なデータセットを扱う。そのため、ツールや時間がなければ、それだけでデータを正確に処理することが不可能になる場合も多い。スーパーコンピューターはひとつの質問に関するデータサブセットを分析するのに数週間から数カ月を要するため、何を質問するかは極めて慎重に吟味しなければならない。AIと機械学習がそうした制限をすでに解消しつつあり、AIツールを用いて大規模なゲノム・データセットを素早く検索し、必要なデータを見つけられるようになっている。わたしのラボでは先日、それまで収集した全データを高速処理する能力がないため公開ゲノム・データベースに埋もれたままになっていた小型ゲノム編集タンパク質を、AIツールの力を借りて発見した。10年前にわたしがカリフォルニア大学バークレー校に設立した研究機関Innovative Genomics Instituteのあるグループは、電気工学・コンピューター・サイエンス（EECS）学部およびCenter for Computational Biologyのメンバーと協力し、自然配列に比べて高い熱耐性をもつ新しい機能的RNA分子を予測するために、人気チャットボットの多くが用いているものに似た大規模言語モデル（LLM）を活用する方法を開発した。この数十年間に科学者たちが共同で構築した巨大なゲノム構造データベースのなかで、ほかにどんなものが発見されるのを待っているか、想像してみてほしい。AIが開発プロセスを加速する そのようにして見つけ出されたものは、現実世界で応用される。いま挙げたふたつの例について言えば、超小型のゲノムエディターは細胞への効率的な薬剤送達に役立つ可能性があり、また熱安定性に優れたRNA分子の予測は医薬品をはじめ価値ある製品を生み出すバイオ製造プロセスの向上に一役買うだろう。医療や医薬品開発では、CRISPRを用いた鎌状赤血球症の治療法が初めて承認され、ほかにおよそ7,000もの遺伝子疾患が同様の治療法を待っている。最適な編集ターゲットを予測し、CRISPRの精度と効率を最大限に高め、オフターゲット効果を低減することで、AIは開発プロセスの加速を後押しすることができるのだ。農業においては、AIの活用によるCRISPRの進歩によって、耐性や生産性が高く栄養豊富な作物をつくり、食料安全保障を強化し、研究者が最大の成果を出すアプローチに注力するのを助けて市場に出るまでの時間を短縮させることが期待されている。気候変動に関しては、AIとCRISPRが自然によるCO₂の回収と環境的持続可能性の向上のための新しいソリューション開発への道を開くかもしれない
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