＜沖縄ＤＥＥＰ＞ラッパー Ａｗｉｃｈさんと家族史（下）／沖縄の心 世界つなぐ翼に／「大嫌い」だった故郷 葛藤越え - 琉球新報デジタル
家族らの戦争体験と向き合い、困難を生き抜く力を学んできたという那覇市出身のラッパーＡｗｉｃｈ（エーウィッチ）さん（３６）＝本名・浦崎亜希子。母の米子さん（７３）に対しても時折、「インタビュー」と称して戦後の体験を聞き取りしてきた。米子さんは戦後の沖縄で最大の米軍機墜落事故といわれる「宮森小米軍ジェット機墜落事故」の生存者だ。１９５９年６月３０日、石川市（現うるま市）上空を飛んでいた米軍嘉手納基地所属の戦闘機が操縦不能となり、住宅地に墜落した。機体は、米子さんが通っていた宮森小学校に突っ込み、死者１８人、重軽傷者２１０人を出す大惨事となった。当時４年生だった米子さんはこう振り返る。
宮森小には米子さんの３人の姉、妹も通っていた。事故の話を聞いて学校に駆け付けた母は、必死で娘たちを捜した。幸い、姉妹は全員無事だった。その後も慰霊祭に参加してきた米子さんは学友たちに思いをはせる。「今になって分かる。（命を）つなげられなかった人たちのことを思うと、どんなに悔しかっただろうって…」２０１７年１２月１３日、米子さんにとって宮森小の悪夢を思い出させる事故が起こった。Ａｗｉｃｈさんの娘・鳴響美（とよみ）さん（１５）が通っていた宜野湾市の普天間第二小学校の運動場に、米軍ヘリコプターの窓が落下したのだ。ヘリは小学校に隣接する米軍普天間飛行場から飛び立った。窓の重さは約８キロ。落下場所から一番近い児童まで１０メートルほどしか離れていなかった。Ａｗｉｃｈさんはすぐ迎えにいけなかったため、米子さんが小学校に駆け付けた。「またか。孫までこういう目に遭うなんて」。米子さんに恐怖と怒りが湧いた。
ミュージックビデオは宜野湾市普天間や、米軍普天間飛行場の移設が計画される名護市辺野古でも撮影された。「自由に飛んでみたいんだ 青く広がる空を」と歌い上げ、「こだまするｂｅａｔｓ どんな爆音にも負けない」と力強く締めくくる。曲に込めた思いをこう語った。 かつて琉球王国だった沖縄は日本に併合され、沖縄戦では本土決戦を遅らせるための「捨て石」にされた。戦後は米軍が住民らの土地を奪って広大な基地を建設し、日本本土にあった米軍基地も移転してきた。現在、在日米軍専用施設の７割が沖縄にあり、過重な負担を背負わされている。「それでも、傷付いた歴史を知っているから、今も美しい海や空を知っているから、心からこの島が大好きだったし、私の故郷なんだという喜びがありました。それが私の葛藤でした」
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