トランプ次期米大統領が、北極圏のデンマーク自治領グリーンランドや中米のパナマ運河を管理下に置くことに意欲を示し、これを果たすための軍事的措置を排除しない考え…
武力による威嚇で他国領土を脅かすことを禁じた国連憲章に反し、力による現状変更を容認するに等しくないか。ウクライナを侵略するロシアや台湾併吞(へいどん)を狙う中国の発想と大差なく、見過ごすことはできない。
トランプ氏の言動は、北大西洋条約機構(NATO)の根幹も揺るがす。米国とデンマークはともに加盟国で、集団的自衛権で守り合う関係だ。同盟国を軍事的に恫喝(どうかつ)することはあり得ない。独仏などの加盟国の反発も当然である。グリーンランドは戦略的重要性が増している。希少鉱物採掘や北極圏航路の拠点としても期待され、中国が触手を伸ばしているのは事実だ。 だが、冷戦期以来の米国とデンマークの防衛協定は、米軍にグリーンランドでの基地設置や自由な移動を認めている。これに基づき、米軍はロシアなどの弾道ミサイルや宇宙活動を追跡・監視する基地を設け、運用中だ。わざわざ領有したり管理下に置いたりする必要はない。 米国の支援で完成したパナマ運河は米国が1999年に管理権をパナマに返還した。トランプ氏は「中国が運営している」と非難した。香港系企業が運河の拠点港を運営している。パナマ側は中国の影響力を否定するが、中国は中南米でも覇権主義的に振る舞っている。トランプ氏はカナダの米国編入へ「経済的強制力」を使うと脅し、メキシコ湾を「アメリカ湾」に改称する考えまで示した。貿易赤字や不法移民問題を抱える両国を揺さぶるつもりでも、屈辱を与えては、同盟国、友好国との亀裂を深め、専制国家を喜ばせる。トランプ氏の周りに苦言を呈する側近が見当たらないことは心配である。
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