米BlackLineの創業者でCoーCEOのテリース・タッカー氏に、AIが経理業務の生産性に与える影響などを聞いた。
経理・決算業務を支援するSaaS「BlackLine」(ブラックライン)の開発や販売を手掛ける米BlackLine(ブラックライン)。2018年に日本法人を設立し、翌2019年に日本でもサービスの提供を始めた。製造業から食品、物流など、業種を問わず顧客を広げている。 ブラックラインは8月29日に東京で自社イベント「CFO組織が拓(ひら)く未来」を開催。創業者でCoーCEO(共同最高経営責任者)のテリース・タッカー氏が来日した。同氏は「今後はAI活用によって、経理や財務の業務をさらに強力に支援していく」と語った。 女性経営者のタッカー氏は、ブラックラインの創業者であると同時にエンジニアでもある。自らソフトウェア・プログラマーとして最初の製品を設計。2007年に早くも製品のクラウド化を進め、米国で大きなシェアを握った。タッカー氏にインタビューし、AIが経理業務の生産性に与える影響や、女性経営者が増えるための条件などについて聞いた。 Therese Tucker(テリース・タッカー)ブラックライン創業者・共同最高経営責任者。イリノイ大学でコンピュータサイエンスと数学の理学士号を取得。1998年から2001年までSunGard Treasury Systemsの最高技術責任者を務め、2001年にブラックラインを設立。2007年にクラウドへの移行を実現し、2016年にIPOに導く。主力製品のFinance Controls and Automation Platformによる決算プロセスの自動化を組織として指揮した「われわれのミッションは、デジタルファイナンスの変革を鼓舞し、そして力を与えて導いていくものです。変革はなくてはならないものになっていて、新たな技術を使うことで皆さんもより多くのことが可能になります」「(AIによって)協力会社からの請求が来れば、金額や、支払い期日などの文書は自動的に生成されます。ユーザーにとっては1分から2分ほどの時間の節減にしかならないかもしれません。しかし、ひと月に1000回その作業をすると考えれば、大きな意味のある時間の節減につながります。その時間を、より戦略的な作業に充てることができるか。そして、よりやりがいのある仕事をできるかが大事です」米国では主要企業500社のうち、半数以上がブラックラインのサービスを導入しているという。多くの自動化エンジンをソフトウェアに組み込むことによって、経理財務担当者の業務負担を軽減する。米国でブラックラインが支持された理由を、タッカー氏は次のように振り返った。 「米国では財務会計の規制がいち早く導入され、財務情報が完全であることが担保されているかどうかが企業に問われるようになりました。その結果、経営財務担当者に多くの負担が発生したのです。その際にブラックラインは、財務記録が正確かどうかを確認する勘定照合において、プロセスの80%を自動化しました。大企業ほどデータが多く、そのデータを全て統合して自動化エンジンにかけることによって、より多くの効果を生むことができます。これが大企業に支持された理由です」タッカー氏が同社を創業したのは2001年。最初の製品は自らソフトウェア・プログラマーとして設計した。起業したのは、経理部門とテクノロジーの相性の良さに着目したからだと話す。 「起業するにあたって、経理部門を支援するサービスを選んだ理由は大きく3つあります。1つ目は、経理はルールに沿って処理されていくので、テクノロジーとの相性が完璧だということです。2つ目は、経理財務部門は社内でなかなか予算がつきにくく、DXに時間がかかると思われたこと。3つ目は、会計担当者はリスクを嫌うので、ブラックラインのソフトウェアが信頼を得られれば、担当者が手放すことはないだろうと考えたからです」さらに、タッカー氏の判断がブラックラインを成長に導いた。経理のソフトウェアをオンプレミスで運用するのが主流だった2007年の時点で、ソフトウェアのクラウド化に踏み切ったのだ。この判断が大きなシェアを獲得する要因となった。 「オンプレミスとSaaSの違いを分析してみると、非常に興味深いことが見えてきました。オンプレミスはソフトウェアの更新が難しく、金額的にも大きくなるので契約をまとめるのも困難です。また、誰かがコンピュータに支障が生じることをしようものなら、ソフトウェアが止まってしまいます。それに対してSaaSは、ソフトウェアの更新も、課題が生じた場合の対応もオンプレミスよりはるかに簡単にできます」 「それだけではなく、最も大事だと考えたのは顧客のことを考え抜いて、顧客中心のサービスを提供することでした。SaaSを月額料金のサブスクリプションで提供した場合、効果が上がっていないと顧客が判断すれば、そこで打ち切られます。逆に言えば、顧客に満足いただける良い仕事をすれば、長い期間にわたって使っていただけます。オンプレミスよりもSaaSの方が良い選択だと考えて、2007年に道筋をつけました」「自己資金で起業したので、最初は怖かったですよ。大企業は支払いが遅く、代金を回収するまでに数カ月かかります。そうなると、所帯の小さな私どもの会社では、従業員に給料が払えなくなってしまいます。この大変さは身に染みました。本当にストレスフルで、おすすめしません(笑)」 「それでも起業をしようと思ったのは、アメリカンドリームを実現したかったからです。私が考えているアメリカンドリームとは、成功するビジネスを興して、何もなかったところから何百人、何千人の雇用を生み出すことです。それが究極の成功だと考えました。苦労なくして成長なし、というのが私の信条です。意思は固い方だと思います」「日本人の男性は、家事をもっと分担していただけませんか。女性が子育て、家事、料理から掃除まで、全部背負ったままで会社でも昇進するのはとても難しいことです。家事をもっと分担してほしいとお願いしたいですね。また、女性はつい遠慮して言いたいことが言えない場面や、控えてしまう場面があると思います。そんなときに、そっと後ろ盾になってくれて、悩みを共有してくれるような指導ができる上司が身近にいれば、女性も自信を持つことができて、良い仕事ができるようになります」AIと人間との信頼関係をつくることが大事 「The Business Report」の編集者と記者が選出に携わり、米ロサンゼルス地域のリーダーたちの功績を称賛する「The Top of 25 Business Leaders of Los Angeles For 2023」において、タッカー氏は第4位に選ばれた。同氏はエンジニアの経験がある経営者として、AIも含めた今後の展望を次のように見ている。 「私はテクノロジー分野では長い経験を有しています。その中で感じているのは、テクノロジーには流行(はや)り廃(すた)りがあることです。ブロックチェーンも、RPAもそうでした。一方、AIは本当にビジネスの流れを変える意味で、テクノロジーの波の一つになると信じています」「期待がある反面、恐れてもいます。監査会社はAIに疑問を持っているようで、監査の際に『どの数字もAIが起こしたものではない』と誓うことを求められました。私たちはAIの進化によってどれだけ業務に対して効果を発揮するのかを、顧客が理解するお手伝いをしたいと考えています。AIが人間に代わってできることを知ってもらって、親しんでもらう。この信頼を作ることが大事です。私は経営者であると同時にエンジニアです。プロダクトに今でも愛着を感じていて、プロダクトが私の神髄です。ビジネスの課題をソフトウェアで解決できる妙味を、今後も追求していきたいですね」.
経理・決算業務を支援するSaaS「BlackLine」(ブラックライン)の開発や販売を手掛ける米BlackLine(ブラックライン)。2018年に日本法人を設立し、翌2019年に日本でもサービスの提供を始めた。製造業から食品、物流など、業種を問わず顧客を広げている。 ブラックラインは8月29日に東京で自社イベント「CFO組織が拓(ひら)く未来」を開催。創業者でCoーCEO(共同最高経営責任者)のテリース・タッカー氏が来日した。同氏は「今後はAI活用によって、経理や財務の業務をさらに強力に支援していく」と語った。 女性経営者のタッカー氏は、ブラックラインの創業者であると同時にエンジニアでもある。自らソフトウェア・プログラマーとして最初の製品を設計。2007年に早くも製品のクラウド化を進め、米国で大きなシェアを握った。タッカー氏にインタビューし、AIが経理業務の生産性に与える影響や、女性経営者が増えるための条件などについて聞いた。 Therese Tucker(テリース・タッカー)ブラックライン創業者・共同最高経営責任者。イリノイ大学でコンピュータサイエンスと数学の理学士号を取得。1998年から2001年までSunGard Treasury Systemsの最高技術責任者を務め、2001年にブラックラインを設立。2007年にクラウドへの移行を実現し、2016年にIPOに導く。主力製品のFinance Controls and Automation Platformによる決算プロセスの自動化を組織として指揮した「われわれのミッションは、デジタルファイナンスの変革を鼓舞し、そして力を与えて導いていくものです。変革はなくてはならないものになっていて、新たな技術を使うことで皆さんもより多くのことが可能になります」「(AIによって)協力会社からの請求が来れば、金額や、支払い期日などの文書は自動的に生成されます。ユーザーにとっては1分から2分ほどの時間の節減にしかならないかもしれません。しかし、ひと月に1000回その作業をすると考えれば、大きな意味のある時間の節減につながります。その時間を、より戦略的な作業に充てることができるか。そして、よりやりがいのある仕事をできるかが大事です」米国では主要企業500社のうち、半数以上がブラックラインのサービスを導入しているという。多くの自動化エンジンをソフトウェアに組み込むことによって、経理財務担当者の業務負担を軽減する。米国でブラックラインが支持された理由を、タッカー氏は次のように振り返った。 「米国では財務会計の規制がいち早く導入され、財務情報が完全であることが担保されているかどうかが企業に問われるようになりました。その結果、経営財務担当者に多くの負担が発生したのです。その際にブラックラインは、財務記録が正確かどうかを確認する勘定照合において、プロセスの80%を自動化しました。大企業ほどデータが多く、そのデータを全て統合して自動化エンジンにかけることによって、より多くの効果を生むことができます。これが大企業に支持された理由です」タッカー氏が同社を創業したのは2001年。最初の製品は自らソフトウェア・プログラマーとして設計した。起業したのは、経理部門とテクノロジーの相性の良さに着目したからだと話す。 「起業するにあたって、経理部門を支援するサービスを選んだ理由は大きく3つあります。1つ目は、経理はルールに沿って処理されていくので、テクノロジーとの相性が完璧だということです。2つ目は、経理財務部門は社内でなかなか予算がつきにくく、DXに時間がかかると思われたこと。3つ目は、会計担当者はリスクを嫌うので、ブラックラインのソフトウェアが信頼を得られれば、担当者が手放すことはないだろうと考えたからです」さらに、タッカー氏の判断がブラックラインを成長に導いた。経理のソフトウェアをオンプレミスで運用するのが主流だった2007年の時点で、ソフトウェアのクラウド化に踏み切ったのだ。この判断が大きなシェアを獲得する要因となった。 「オンプレミスとSaaSの違いを分析してみると、非常に興味深いことが見えてきました。オンプレミスはソフトウェアの更新が難しく、金額的にも大きくなるので契約をまとめるのも困難です。また、誰かがコンピュータに支障が生じることをしようものなら、ソフトウェアが止まってしまいます。それに対してSaaSは、ソフトウェアの更新も、課題が生じた場合の対応もオンプレミスよりはるかに簡単にできます」 「それだけではなく、最も大事だと考えたのは顧客のことを考え抜いて、顧客中心のサービスを提供することでした。SaaSを月額料金のサブスクリプションで提供した場合、効果が上がっていないと顧客が判断すれば、そこで打ち切られます。逆に言えば、顧客に満足いただける良い仕事をすれば、長い期間にわたって使っていただけます。オンプレミスよりもSaaSの方が良い選択だと考えて、2007年に道筋をつけました」「自己資金で起業したので、最初は怖かったですよ。大企業は支払いが遅く、代金を回収するまでに数カ月かかります。そうなると、所帯の小さな私どもの会社では、従業員に給料が払えなくなってしまいます。この大変さは身に染みました。本当にストレスフルで、おすすめしません(笑)」 「それでも起業をしようと思ったのは、アメリカンドリームを実現したかったからです。私が考えているアメリカンドリームとは、成功するビジネスを興して、何もなかったところから何百人、何千人の雇用を生み出すことです。それが究極の成功だと考えました。苦労なくして成長なし、というのが私の信条です。意思は固い方だと思います」「日本人の男性は、家事をもっと分担していただけませんか。女性が子育て、家事、料理から掃除まで、全部背負ったままで会社でも昇進するのはとても難しいことです。家事をもっと分担してほしいとお願いしたいですね。また、女性はつい遠慮して言いたいことが言えない場面や、控えてしまう場面があると思います。そんなときに、そっと後ろ盾になってくれて、悩みを共有してくれるような指導ができる上司が身近にいれば、女性も自信を持つことができて、良い仕事ができるようになります」AIと人間との信頼関係をつくることが大事 「The Business Report」の編集者と記者が選出に携わり、米ロサンゼルス地域のリーダーたちの功績を称賛する「The Top of 25 Business Leaders of Los Angeles For 2023」において、タッカー氏は第4位に選ばれた。同氏はエンジニアの経験がある経営者として、AIも含めた今後の展望を次のように見ている。 「私はテクノロジー分野では長い経験を有しています。その中で感じているのは、テクノロジーには流行(はや)り廃(すた)りがあることです。ブロックチェーンも、RPAもそうでした。一方、AIは本当にビジネスの流れを変える意味で、テクノロジーの波の一つになると信じています」「期待がある反面、恐れてもいます。監査会社はAIに疑問を持っているようで、監査の際に『どの数字もAIが起こしたものではない』と誓うことを求められました。私たちはAIの進化によってどれだけ業務に対して効果を発揮するのかを、顧客が理解するお手伝いをしたいと考えています。AIが人間に代わってできることを知ってもらって、親しんでもらう。この信頼を作ることが大事です。私は経営者であると同時にエンジニアです。プロダクトに今でも愛着を感じていて、プロダクトが私の神髄です。ビジネスの課題をソフトウェアで解決できる妙味を、今後も追求していきたいですね」
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