お手ごろ価格の大衆車が壊滅!? 欧州を襲う自動車価格高騰の波を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
2026年1月、ステランティスの欧州広域および欧州ブランド最高執行責任者(COO)であるエマヌエレ・カッペラーノ氏は、ブリュッセルモーターショーで「1万5000ユーロ未満の乗用車は、ほぼ市場から消えうせた」と発言した。さらに同氏は、欧州連合(EU)の規制、顧客の要望、そして産業の持続可能性との不整合について、強い懸念を表明した。欧州の複数メディアが伝えている。 1万5000ユーロは、2026年1月23日時点の円換算で約277万円に相当する。カッペラーノ氏は、EUの厳しい環境規制に適合するための車両開発・製造費用を価格に転嫁した結果、一般ユーザーが買い求めにくくなったことを指摘。また「単一の技術に焦点を当てると、普及型の自動車が消滅し、欧州域外への技術依存が増える危険性がある」として、バッテリー電気自動車(BEV)への過度な政策的偏重と、その結果としての中国メーカーの台頭に警鐘を鳴らした。さらに同氏は「EUは自動車産業を戦略的資産とみなすかどうかを決定すべき」とも語った。 筆者が調べたところによると、2026年1月時点の イタリア において、1万5000ユーロ以下の主要メーカー製乗用車(期間限定価格や補助金適用価格、また四輪の原動機付き自転車「クアドリサイクル」は除く)は1車種しかない。ルノーグループのいちブランドであるダチアの「サンデロ ストリートウェイ」、1万4800ユーロである。それも「エッセンシャル」と名づけられた65HP・5段マニュアルトランスミッションのベースグレードだ。日本でもよく知られる「フィアット・パンダ(パンディーナ)」は1万5950ユーロから、2025年に販売開始された新型「500ハイブリッド」は1万9990ユーロからしかない。先進運転支援システムなど、EUが求める安全装備が付加されたことも考慮すべきだが、新型コロナ禍までの「パンダ≒1万ユーロ」の印象をもってすると、現在の高額ぶりは衝撃的だ。 EUが新車の安全規制や環境規制を強化した結果、交通事故による死者は確実に減少し、都市部の大気汚染も改善がみられる。だが、社会的効果と価格上昇との間に均衡が取れていると感じる欧州ユーザーは多くはなく、それが販売の伸びの鈍化に表れているのである。 読者諸氏もご存じのとおり、2026年に入って為替相場では円安ユーロ高が加速している。1月22日にはニューヨーク外為市場で史上初の1ユーロ186円台をつけた。ここまで日本円の価値が下落するとは。1ユーロが100円を切っていた時代の追憶を語るつもりはないものの、「身ひとつで来伊して、ここまで頑張ってきたのに」という、自己努力では解決できない虚無感にさいなまれる。話は飛躍するが、旧日本陸軍大尉で満洲映画協会理事長を務めた甘粕正彦による辞世の句「大ばくち 身ぐるみ脱いで(一説には「もとも子もなく」) すってんてん」が脳裏をよぎる今日このごろだ。 おっと、話をクルマに戻そう。前述の数字をもとに円換算すると、パンダの価格は296万円を超える。残価設定型ローンは イタリア でも徐々に普及しているが、駐車中にぶつけられたり傷つけられたりが頻発するこの国で、残存価格が満額保証される可能性はきわめて低い。で記したように、 イタリア では北部の大都市を中心に、近い将来、ディーゼル車は欧州排出ガス基準「ユーロ6」適合でないと運転できなくなる公算が強い。そうしたなかで、該当車種には強気な値付けがみられる。欧州の中古車インターネット販売サイト『オートヒーロー』で検索してみると、「BMW 218dアクティブツアラー」は、初度登録2016年・走行距離14万km超にもかかわらず、1万1800ユーロ(約217万円)の値札が下げられている。日本なら走行4万km台で支払総額100万円を切る同型車もあることを思うと、購入マインドがなえる。では「ちょっと古い高級車」という選択肢は? ということで、欧州の著名中古車検索サイト『オートスカウト24』を閲覧する。 イタリア の現行制度では最高出力185kW(251PS)以上のクルマを購入すると、新車・中古車を問わず、すべてが税務調査の対象となる。自身になんらやましいことはないが、税務署ホイホイのようなクルマは避けたい。よくしたもので、初代「ポルシェ・カイエン」には184kW(250PS)という前述の調査対象に辛うじてかからないモデルがあり、6500ユーロ(約121万円)が相場である。しかし、 イタリア の高級車ユーザーは走りを楽しむので、走行距離は20万kmから30万km台だ。将来の修理代を考えると、到底現実的ではない。実際に、近所の若いカフェ経営者が初代カイエンに乗っていたが、あるときからぱったりと見なくなった。やはり高額な維持費に耐えられなかったのだろう。 いっぽうで、 イタリア には自動車を歴史遺産としてとらえる「古典車登録」の制度がある。初回登録後20年もしくは30年が経過した車両が対象で、格安の諸税や保険が適用される。ただし車種は指定されており、審査には内外装ともに高度なオリジナル状態が求められる。ハードルはけして低くはないし、修復済みの個体はそれなりに高額だ。また、保険会社によって年間走行距離や用途など、細則が設けられている。 そもそも商用車。中古車価格も乗用車より手ごろだろうと思い、「トヨタ・ハイラックス」を前述の中古車検索サイトで調べてみた。ところが、まともな個体は、たとえ20年落ちでも円にして200万円以上する。カイエンより高い。さすが世界のトヨタと思ったのであった。Akio Lorenzo OYA 在 イタリア ジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、 イタリア の大学院で文化史を修める。日本を代表する イタリア 文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKの イタリア 語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。 イタリア 自動車歴史協会会員。.
2026年1月、ステランティスの欧州広域および欧州ブランド最高執行責任者(COO)であるエマヌエレ・カッペラーノ氏は、ブリュッセルモーターショーで「1万5000ユーロ未満の乗用車は、ほぼ市場から消えうせた」と発言した。さらに同氏は、欧州連合(EU)の規制、顧客の要望、そして産業の持続可能性との不整合について、強い懸念を表明した。欧州の複数メディアが伝えている。 1万5000ユーロは、2026年1月23日時点の円換算で約277万円に相当する。カッペラーノ氏は、EUの厳しい環境規制に適合するための車両開発・製造費用を価格に転嫁した結果、一般ユーザーが買い求めにくくなったことを指摘。また「単一の技術に焦点を当てると、普及型の自動車が消滅し、欧州域外への技術依存が増える危険性がある」として、バッテリー電気自動車(BEV)への過度な政策的偏重と、その結果としての中国メーカーの台頭に警鐘を鳴らした。さらに同氏は「EUは自動車産業を戦略的資産とみなすかどうかを決定すべき」とも語った。 筆者が調べたところによると、2026年1月時点のイタリアにおいて、1万5000ユーロ以下の主要メーカー製乗用車(期間限定価格や補助金適用価格、また四輪の原動機付き自転車「クアドリサイクル」は除く)は1車種しかない。ルノーグループのいちブランドであるダチアの「サンデロ ストリートウェイ」、1万4800ユーロである。それも「エッセンシャル」と名づけられた65HP・5段マニュアルトランスミッションのベースグレードだ。日本でもよく知られる「フィアット・パンダ(パンディーナ)」は1万5950ユーロから、2025年に販売開始された新型「500ハイブリッド」は1万9990ユーロからしかない。先進運転支援システムなど、EUが求める安全装備が付加されたことも考慮すべきだが、新型コロナ禍までの「パンダ≒1万ユーロ」の印象をもってすると、現在の高額ぶりは衝撃的だ。 EUが新車の安全規制や環境規制を強化した結果、交通事故による死者は確実に減少し、都市部の大気汚染も改善がみられる。だが、社会的効果と価格上昇との間に均衡が取れていると感じる欧州ユーザーは多くはなく、それが販売の伸びの鈍化に表れているのである。 読者諸氏もご存じのとおり、2026年に入って為替相場では円安ユーロ高が加速している。1月22日にはニューヨーク外為市場で史上初の1ユーロ186円台をつけた。ここまで日本円の価値が下落するとは。1ユーロが100円を切っていた時代の追憶を語るつもりはないものの、「身ひとつで来伊して、ここまで頑張ってきたのに」という、自己努力では解決できない虚無感にさいなまれる。話は飛躍するが、旧日本陸軍大尉で満洲映画協会理事長を務めた甘粕正彦による辞世の句「大ばくち 身ぐるみ脱いで(一説には「もとも子もなく」) すってんてん」が脳裏をよぎる今日このごろだ。 おっと、話をクルマに戻そう。前述の数字をもとに円換算すると、パンダの価格は296万円を超える。残価設定型ローンはイタリアでも徐々に普及しているが、駐車中にぶつけられたり傷つけられたりが頻発するこの国で、残存価格が満額保証される可能性はきわめて低い。で記したように、イタリアでは北部の大都市を中心に、近い将来、ディーゼル車は欧州排出ガス基準「ユーロ6」適合でないと運転できなくなる公算が強い。そうしたなかで、該当車種には強気な値付けがみられる。欧州の中古車インターネット販売サイト『オートヒーロー』で検索してみると、「BMW 218dアクティブツアラー」は、初度登録2016年・走行距離14万km超にもかかわらず、1万1800ユーロ(約217万円)の値札が下げられている。日本なら走行4万km台で支払総額100万円を切る同型車もあることを思うと、購入マインドがなえる。では「ちょっと古い高級車」という選択肢は? ということで、欧州の著名中古車検索サイト『オートスカウト24』を閲覧する。イタリアの現行制度では最高出力185kW(251PS)以上のクルマを購入すると、新車・中古車を問わず、すべてが税務調査の対象となる。自身になんらやましいことはないが、税務署ホイホイのようなクルマは避けたい。よくしたもので、初代「ポルシェ・カイエン」には184kW(250PS)という前述の調査対象に辛うじてかからないモデルがあり、6500ユーロ(約121万円)が相場である。しかし、イタリアの高級車ユーザーは走りを楽しむので、走行距離は20万kmから30万km台だ。将来の修理代を考えると、到底現実的ではない。実際に、近所の若いカフェ経営者が初代カイエンに乗っていたが、あるときからぱったりと見なくなった。やはり高額な維持費に耐えられなかったのだろう。 いっぽうで、イタリアには自動車を歴史遺産としてとらえる「古典車登録」の制度がある。初回登録後20年もしくは30年が経過した車両が対象で、格安の諸税や保険が適用される。ただし車種は指定されており、審査には内外装ともに高度なオリジナル状態が求められる。ハードルはけして低くはないし、修復済みの個体はそれなりに高額だ。また、保険会社によって年間走行距離や用途など、細則が設けられている。 そもそも商用車。中古車価格も乗用車より手ごろだろうと思い、「トヨタ・ハイラックス」を前述の中古車検索サイトで調べてみた。ところが、まともな個体は、たとえ20年落ちでも円にして200万円以上する。カイエンより高い。さすが世界のトヨタと思ったのであった。Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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