2021年にWOWOWの開局30周年を記念して始動した「アクターズ・ショート・フィルム」。この企画は、俳優たちが予算・撮影日数を同条件に25分以内のショートフィルムを制作し、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」(SSFF & ASIA)のグランプリを目指すというものだ。第4弾となる今回は、千葉雄大、仲里依紗、福士蒼汰、森崎ウィンが監督として参加する。
「せん」は、WOWOWが主宰する「アクターズ・ショート・フィルム」第4弾の4本のうちの1本。2021年から生まれ出てきたショート・フィルムのなかでも初めてのミュージカル映画である。いわばチャレンジ作なのだが、作品自体には気負いやてらいはない。優しくからだに沁み込んで、けれどコツンと胸に響く核があるのだ。森崎監督の、柔らかで真摯なまなざしが隅々まで生き渡る作品の誕生である。
台所でカボチャを煮る。出来上がったお惣菜をタッパーに詰め、役場から戻って来た青年に渡す。そうか、青年は役場で老人の見守りを担当していて、務めを越えておばあさんと親しくなったのだろう。おばあさんの親しみやすい人柄や平穏な暮らしぶりと同時に、小さなコミュニティの温かな交流が分かるエピソードが積み重ねられていく。そんな穏やかな時間に、時々ラジオの臨時ニュースの声が飛び込んでくる。ニュースはどこかの国で起きた戦争が、激しくなっていく様子を伝えている。架空の地名だけれど、ガザだろうか、あるいはウクライナかもと思わせるニュースだ。平穏な日々に突然侵入してくる不穏な音は、けれど、とりたてて大きな波紋を生むこともない。夕刻、洗濯物を取り込むおばあさんの視線の先、垣根の向こうの小さな広場には、10数人に増えた人々が見えるが……。
優しい暮らしのすぐそばにある対立や諍い、戦争を、映画は静かに浮かび上がらせる。役場の青年や郵便局員、電話で繋がっている遠方の娘、またおばあさん自身も含めて、思いやりと優しさに支えられた平和な日々。でも、すぐ傍では諍いが加速し、その先のどこかでは戦争が刻々と激化している。対比でもあり並列でもある構図だ。温かなコミュニケーションが失われた先にあるのが、諍いであり戦争であるのだから。 ミュージカル仕立てにしたのも効果的である。主人公と役場勤めの青年の気持ちが自然に寄り添い、歌になるシーンのなんと印象的なことか。優しく伸びやかな歌が、そのまま作品が醸す優しさに繋がっていくのだ。思いやりやコミュニケーションなしに人は生きられないこと、そして、それらの欠如が諍いや戦争に繋がっていくこと、といったテーマが、さりげなく伝わってくるミュージカル・シーンである。このナンバーをはじめ全編を紡ぐ楽曲は小澤時史の作曲によるもの。作詞は前述の上田一豪。上田は「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」「GREASE」などのブロードウェイ・ミュージカルや「四月は君の嘘」「この世界の片隅に」などの大作オリジナル・ミュージカルを演出する一方、自らの劇団TipTapでオリジナル・ミュージカルを作り続けている。彼と長くクリエーティブコンビを組んでいるのが、小澤時史である。
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