1968年9月14日生まれ、長崎県出身。1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞してデビュー。2002年には「パレード」で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第127回芥川賞を受賞した。主な著書に「悪人」「さよなら渓谷」「横道世之介」などがある。「怒り」原作小説は、中公文庫より発売中。
冒頭で清水尋也くんの顔を正面のアップで撮っているんですよ。その顔の撮り方で、なんとなく映画全体を感じるものがありました。彼の顔って何を考えているのかわからない。何も信じていないような、何も強いベクトルがないような顔なんです。感情が1つの方向に向かっているというよりも、ものすごく揺らいでる顔。そういう顔ってすごく人を惹き付ける魅力がある。それは芋生悠さんもそう。俳優としての福士蒼汰くんがあの顔を撮れること、そういうものを描いていくという宣言に感心して。あの顔をオープニングに持ってくる。確信犯でやっていると思うほどの、なかなかいいショットでしたね。映画全体としても顔のアップが強い。顔の映画だったね。「湖の女たち」において福士の何を考えているかわからない顔を撮りたかったという大森。監督として俳優の“無自覚な顔”を撮ることの難しさに触れる。
そういう顔は僕が「湖の女たち」で福士くんに求めていたものでもありました。俳優が自分で意図し出すと、なかなかそういう表情にはならない。監督は無自覚な部分を撮りたいんですけど、そのあたりが例えば「湖の女たち」にも出ている浅野忠信さんはめちゃくちゃうまい。「イツキトミワ」は福士くんが浅野さんと共演したことも大きいんじゃないのかな。何を考えているかわからない表情をする俳優と、わかる表情をする俳優が同じフレームに入ったとき、お客さんはわからないほうの人を見ちゃう。「この人何を考えているんだろうな」と視線が向く。福士くんとも、ごはんを食べたときにそういう話をしました。クローズアップを撮るのはすごく難しい。僕も監督として作品ごとに、どこまで顔に寄ろうか悩みます。アップは感情移入をお客さんに強要するんですよ、かなり強く。でも福士くんが「イツキトミワ」で撮っているのは、それとは別の顔。観る人の視点で言うと「こいつなんなんだろう?」という、観客が考える余地のあるアップになっているんですよ。感情移入を強要するものから逃れられている。それがすごい。あんなに大胆に顔の正面にカメラが入って、的確に撮っているのが素
男女が出会うと、どこかで恋愛関係になるんじゃないか?と一瞬は思うんですけど、あまりそういう映画と強くは思わなかった。作品の持っている気配というか、冒頭のアップのショットの不気味さが効いているのかな。男女が並んでわかりやすい恋に落ちる、情事が起きるという構造から逃避していて、2人の感情が最大公約数的な方向には向かっていかないのも、いいところかもしれない。ただ誤解を恐れずに言うと「ちょっとうますぎる」と。もう少し僕は破綻しているというか、うまくなりすぎないところが観たかったのも正直な気持ち。例えば清水くん、芋生さん2人の長回しもいけたんじゃない?とは観ていて思いました。あとは酒飲んだときに福士くんに直接言います(笑)。映画監督として第一線で活躍しながら、俳優として映画「はい、泳げません」「ほかげ」などに出演している大森。俳優として監督を経験した福士に、最後に言っておきたいこととは。
俳優が監督をするとき、一番大事な「演技を撮る」ということに関してプロフェッショナルなはず。僕はジョン・カサヴェテスが好きだから。本当はそういう作品が増えてもいいなって思います。映画のうまさより、役者の演技をどう引き出すかで力を発揮できるはずだから。福士くんには「なんで映画なんか撮ってるの」「困るんだけど」「今度話そうぜ」って言いたいですね(笑)。彼と映画を作っているときに、「湖の女たち」のように作家性のある作品と、大勢に向けて作っていく作品と、バランスよくやっていきたいという話をしていたんですよ。この「イツキトミワ」にもそのようなところを感じて、作品性や商業性の難しいところに向かっていく志に「やるじゃん」って思いました。
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