「北極を平和圏にしよう」。かつてこう宣言したゴルバチョフ元ソ連大統領が2022年8月、死去した。冷戦終結以降、北極は他の地域の紛争に影響されず、各国が科学研究や漁業規制で協力し合う国際協調の舞台だった。
米国やロシアなど北極圏8カ国から成る北極評議会の「閣僚級」会合が23年5月、議長国ロシアの北部サレハルドで開催された。ノルウェーに議長を引き継ぐ重要な会合だったが、参加した加盟国閣僚はゼロ。実務者だけがオンラインで出席する異例の事態となった。西側諸国と対決姿勢を強めるロシアが2年ごとの議長国交代を拒否すれば、評議会が空中分解する恐れがある。ノルウェー政府の実務者代表としてロシアとの折衝に当たったモルテン・ホグランド氏は、議長国交代が行われるか「閣僚級会合前夜まで確信がなかった」と明かす。北極評議会は今年2月、動植物や海洋環境の保護などの個別課題を話し合う作業部会の一部会合をオンラインで再開した。だが、ロシアとの政府間協力が再開できる見通しは立たず、研究者の往来も容易ではない。北極で急速に進む「気候崩壊」の原因や影響を解明しようとする研究の多くが滞っている。西側の科学者と連絡を取ると自身の身が危険にさらされるため、メールを送らないよう求めてきたロシアの研究協力者もいるという。同理事長は「東西を分かつ冷戦時代の『壁』が戻ってきた」と指摘する。北欧とロシアにまたがる地域でトナカイの放牧などを
それから2年以上、交流は途絶えたままだ。サーミ評議会のアスラート・ホルムバルグ代表は「われわれのような西側の人権擁護団体と緊密に連絡を取っていると、ロシア側のメンバーが当局に目を付けられる恐れがある」と説明する。 冷戦終結以降、地道に築いてきた協力関係はもろくも崩れた。ホルムバルグ氏は悔しさをにじませる。「今はさまざまな通信手段があり、昔ほど強固な『鉄のカーテン』ではない。ただ、あの時代と多くの共通点があるのは間違いない」
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