クラシックカーをあえて現代的に再生するレストモッド。世界的に流行しているワケを識者が語る。
毎年アメリカ・カリフォルニア州で開催されるモントレーカーウイークにおいて、“レストモッド文化”を根づかせたのは、間違いなくシンガー・ビークル・デザインだ。2011年には早くも「 ポルシェ 911 」を持ち込み、2015年から今年に至るまで人気イベント「モータースポーツギャザリング」に専用ブースをしつらえている。 レストモッド(Restomod)とは、「レストレーション&モディフィケーション」の略。クラシックカーをレストアするにあたって内外装に現代的なモディフィケーションを加えるというわけだが、実を言うと、さほど新しい文化ではない。特にアメリカでは普通のチューニングプログラムだった。古い「コルベット」に新しいV8 OHVを積むなんてことはガレージDIYレベルの話かもしれない。 そこで彼らがユニークだったのは、964型の内外装を901型、つまり古いモデルである“ナロー”風に仕立てつつ、パフォーマンスにおいてはモダナイズを行ったという点にある。つまりベースは964だが、見た目にはナローで、中身は新しい。しかも内外装のコンフィギュレーションは自由自在、顧客の望むまま仰せのとおりに仕立てられた。 実を言うと964をナロー風に仕立てることもまた 911 マニアの間ではひそかに行われていたモディファイで、基本骨格を3世代、つまり901(後半)→930→964と大きく変えることのなかった 911 ならではというべき“お遊び”だった。そこにシンガーは目をつけた。 今回、モントレーカーウイークでファウンダーのロブ・ディキンソン氏とゆっくり話すことができたのだが、彼は、英国でカーデザイナーの仕事を辞し、“シンガー”としてバンドを立ち上げて成功したのち、ロサンゼルスにやってきて愛車 ポルシェ 911 のホットロッド製作(といっても日本人がイメージするあのホットロッドではなく、一般的には古いクルマの改造を指す)を始めた2000年代半ばに、もう 911 のレストモッドに商機を見いだしていたらしい。ただし、これほど大きくなるとは想像していなかっただけである。ちなみに現在のシンガーは年間に140台前後のレストアを行い、アメリカと英国の拠点には総勢750人ものスタッフが働いている。 シンガーの成功を見て、アメリカはもちろん、英国やイタリア、ドイツ、そして日本でも続々とクラシックモデルのレストモッドが盛んになってきた。なかでも ポルシェ 911 をベースとするビジネスモデルが最も多いが、イタリアであればアルファ・ロメオやランチア、フェラーリ、さらにはランボルギーニの、英国であればジャガーやアストンマーティンのレストモッドが登場している。今後、その傾向はますます強まっていくに違いない。もっとも、シンガーのように大成功するかどうかは甚だ疑わしい。シンガーがこれほどまでに成功した理由は、ロブと仲間たちが今も変わらず“盛大なる遊び心”(=情熱と言い換えてもいい)を持っていて、 ポルシェ 911 という偉大なるスポーツカーが素材であったからだ。ロブたちも言うように「お金もうけのために走りだしたプロジェクトは破綻する」世界でもあるだろう。 そう考えたとき、成功の鍵を握る要素はやはり、ベースモデルが何であるか、だ。 911 はともかく、その他のモデルでレストモッドによる完璧なレストレーションがどこまで支持されるだろうか? そのものの価値に加えて人気=流通台数に大いに左右されるとなれば、すでに存在するプログラムのなかにはそもそもベースモデルの供給という点で先行きの厳しいモデルも散見される。 レストモッドがこれほど認められた背景には、レギュレーションにがんじがらめとなった最新モデルの性能やデザインに好事家が飽き始めたことがあった。つまりは次から次へと登場し常軌を逸する高性能をうたった新しいクルマへのアンチテーゼである。(文=西川 淳/写真=西川 淳、webCG/編集=関 顕也).
毎年アメリカ・カリフォルニア州で開催されるモントレーカーウイークにおいて、“レストモッド文化”を根づかせたのは、間違いなくシンガー・ビークル・デザインだ。2011年には早くも「ポルシェ911」を持ち込み、2015年から今年に至るまで人気イベント「モータースポーツギャザリング」に専用ブースをしつらえている。 レストモッド(Restomod)とは、「レストレーション&モディフィケーション」の略。クラシックカーをレストアするにあたって内外装に現代的なモディフィケーションを加えるというわけだが、実を言うと、さほど新しい文化ではない。特にアメリカでは普通のチューニングプログラムだった。古い「コルベット」に新しいV8 OHVを積むなんてことはガレージDIYレベルの話かもしれない。 そこで彼らがユニークだったのは、964型の内外装を901型、つまり古いモデルである“ナロー”風に仕立てつつ、パフォーマンスにおいてはモダナイズを行ったという点にある。つまりベースは964だが、見た目にはナローで、中身は新しい。しかも内外装のコンフィギュレーションは自由自在、顧客の望むまま仰せのとおりに仕立てられた。 実を言うと964をナロー風に仕立てることもまた911マニアの間ではひそかに行われていたモディファイで、基本骨格を3世代、つまり901(後半)→930→964と大きく変えることのなかった911ならではというべき“お遊び”だった。そこにシンガーは目をつけた。 今回、モントレーカーウイークでファウンダーのロブ・ディキンソン氏とゆっくり話すことができたのだが、彼は、英国でカーデザイナーの仕事を辞し、“シンガー”としてバンドを立ち上げて成功したのち、ロサンゼルスにやってきて愛車ポルシェ911のホットロッド製作(といっても日本人がイメージするあのホットロッドではなく、一般的には古いクルマの改造を指す)を始めた2000年代半ばに、もう911のレストモッドに商機を見いだしていたらしい。ただし、これほど大きくなるとは想像していなかっただけである。ちなみに現在のシンガーは年間に140台前後のレストアを行い、アメリカと英国の拠点には総勢750人ものスタッフが働いている。 シンガーの成功を見て、アメリカはもちろん、英国やイタリア、ドイツ、そして日本でも続々とクラシックモデルのレストモッドが盛んになってきた。なかでもポルシェ911をベースとするビジネスモデルが最も多いが、イタリアであればアルファ・ロメオやランチア、フェラーリ、さらにはランボルギーニの、英国であればジャガーやアストンマーティンのレストモッドが登場している。今後、その傾向はますます強まっていくに違いない。もっとも、シンガーのように大成功するかどうかは甚だ疑わしい。シンガーがこれほどまでに成功した理由は、ロブと仲間たちが今も変わらず“盛大なる遊び心”(=情熱と言い換えてもいい)を持っていて、ポルシェ911という偉大なるスポーツカーが素材であったからだ。ロブたちも言うように「お金もうけのために走りだしたプロジェクトは破綻する」世界でもあるだろう。 そう考えたとき、成功の鍵を握る要素はやはり、ベースモデルが何であるか、だ。911はともかく、その他のモデルでレストモッドによる完璧なレストレーションがどこまで支持されるだろうか? そのものの価値に加えて人気=流通台数に大いに左右されるとなれば、すでに存在するプログラムのなかにはそもそもベースモデルの供給という点で先行きの厳しいモデルも散見される。 レストモッドがこれほど認められた背景には、レギュレーションにがんじがらめとなった最新モデルの性能やデザインに好事家が飽き始めたことがあった。つまりは次から次へと登場し常軌を逸する高性能をうたった新しいクルマへのアンチテーゼである。(文=西川 淳/写真=西川 淳、webCG/編集=関 顕也)




