ポーカープレイヤーからべンチャーキャピタリストに至るまで、訪れたチャンスを最大限に活用し、成功の可能性を高めるためには知っておくべきマインドセットがある。
世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。米大統領選の正確な予測で知られる統計学者のネイト・シルバーは、ポーカープレイヤーとしての経験から、リスクをいかにとるべきかを指南する。 政治について論評したり、選挙モデルを構築したりし始める前、わたしはプロのポーカープレイヤーだった。ギャンブルの世界で最もわたしを魅了するのは、人をある特定の行為に走らせるマインドセット──すなわち、わたしが「ザ・リバー(川)」と呼ぶ、ある種の人たちに共通するものの見方だ。 「ザ・リバー」とは、似たような考えをもつ人々の間に大きく拡がる生態系であり、そこには少額しか賭けないポーカーのプロから、暗号資産界の大立者やべンチャーキャピタルの億万長者まで、さまざまな種類の人間が含まれる。その考え方は分析的、抽象的、競争的、逆張り的であり、それは生き方にも表れている。大部分の「ザ・リバー」は金持ちでも権力者でもないが、金持ちや権力者は往々にして「ザ・リバー」である可能性が高い。 以下に挙げるのは、わたしがまとめた「極めて有能なリスクテイカーが実行している13の習慣」だ。「ザ・リバー」に属するリスクテイカーたちやその他の物理的リスクを果敢に引き受ける人たち──宇宙飛行士や深海の探検家たち、NFL選手など──の一定数は、たいていここに挙げたような共通項をもっている。これまでにわたしが研究した結果によると、あえてリスクを求めたうえでリスクをうまく制御できる人には、どうやら以下のような共通項があると思われるのだ。さてあなたには、どれくらいこの共通項が当てはまるだろうか? 圧がかかっても慌てない ほかの人が慌てているときに冷静でいられる人は少ないが、勝てるギャンブラーになるためには、それは必須の特質だ。日々の状況にどれだけうまく対処できるかは、この際関係ない。圧がかかったときにすぐに慌てて固まってしまうのでは、自分の力を最大限に発揮することは絶対にできない。 大胆さがある ポーカーやスポーツ賭博では、大部分のプレイヤーが賭け金を失う。その状況のなかで常にトップに立とうと思うなら、絶妙なバランス感覚が必要だ。ギャンブルに自信過剰は禁物だが、最強の相手とポーカーをするときには、気弱なところを見せてはいけない。 戦略的共感能力がある リスクテイカーは相手の立場に立って考えることができる。これは相手に対して感傷的に感情移入する、という意味ではない。心理学の研究によると、秩序立った思考(これは「ザ・リバー」の人たちが得意とする思考法だ)と感情移入を伴う行動の間には負の相関関係がある。戦略的共感能力は、ポーカーでは大いに役に立つ。なぜなら、ポーカーは数学的であると同時に人間的なゲームでもあるからだ。 結果でなく過程を重視する リスクテイカーは長期的視野に立ってプレイする。「結果だけにこだわるな」というのは、多くのポーカープレイヤーの頭のなかに深く刻み込まれたモットーだ。確かに、最終的には結果が物を言うのだが、「ザ・リバー」であることの利点のひとつは、「人の受け取る報酬は結局、客観的尺度に依存するものだ」と知っている点なのだ。 とにかくシュートを受ける リスクテイカーは自分が危険を冒していることを承知のうえでやっている。そして、失敗しても腐らない。ドラマ「ジ・オフィス」の米国版のあるエピソードで、憎めないがどうしようもなくアホな上司マイケル・スコットが、アイスホッケー選手ウェイン・グレツキーの言葉を間違って引用するくだりがある。「受けていないシュートは100%受けられない」。この言葉には、確かに一縷の真実がある。 「レイズか降りるか」の姿勢で臨む リスクテイカーは無難な手を嫌い、引くべきときはすぐに引く。ポーカーで犯しやすい最大の過ちは、たいていのプレイヤーがホールデムをやり過ぎること。ポーカーには基本的にコール、フォールド、レイズという3つの手があるが、ほとんどの人がコールボタンを押し過ぎる。そういう人は危険を冒したくないからだが、降りるべきときや、レイズするべきときにも往々にしてコールしてしまいがちなのだ。 常に備えている リスクテイカーが直感的に最善の判断を下せるのは、それまでに十分な訓練を積んでいるからであって、その場で適当に思い付いたからではない。プライべートエクイティ投資家であり探検家でもあるヴィクター・ヴェスコヴォが映画『トップガン マーヴェリック』を観ていて違和感を覚えるのは、トム・クルーズが危機一髪の状況に陥ったときに、そこから抜け出す方法を絶対にその場で考え出そうとすることだという。「最良の軍事作戦は非常に退屈なものであって、すべての事柄が計画通りに進み、誰も危険な目に遭うことはありません。リスクは最小限に抑えるべきなのです。『トップガン』は映画として観るにはおもしろいのですが、現実にはあんなやりかたで標的を始末しようとしたりはしません」 細部にも十分に気を配る リスクテイカーは注意を怠らないことが、得難い結果につながるのをよく理解している。ポーカーではゲームの最中に、自分にはやるべきことが何もない、という状況が頻繁に出現する。ゲーム中の大部分の時間は、ただ待っているうちに過ぎていくのだ。そういうときには、自分の精神的な処理能力を調整し、エネルギーを保存しつつ、必要なときはいつでも行動に移れるよう備えておく必要がある。 適応能力が高い リスクテイカーはたいてい万能選手であり、新たな機会を利用したり、新たな脅威に対応したりする能力も高い。「キツネ」と呼ばれるこのタイプのことを、ギリシャの詩人アルキロコスはこんなふうに描写している。「キツネは多くのことを知っているが、ハリネズミが知るのはひとつの大きなことだけだ」。キツネは機会を求めて走り回り、自己満足に陥ったり束縛され過ぎたりするのを警戒する。ただし、この習慣にはいくつかの例外がある。特に、スタートアップ企業の創業者たちは、ひとつの大きなことだけに真剣に注意を向け、10年後あるいはそれ以上の期間を見据えた対策を練るべきだ。 見積もり能力も高い リスクテイカーはベイズ統計学の実践者であり、自分の直感を定量化したり、不完全な情報を基に推理したりするのを好む。実際、90%と93%の違いは本当に重要なのだろうか? 溶け込むのではなく目立つことを選ぶ 独立した精神と目的は、高い能力の持ち主である印である。 逆張りを恐れない リスクテイカーは従来の知恵と言われているものが間違っているときにはそれに気づくし、それがなぜ間違っているかもわかっている。独立した精神をもつことと、逆張りのためだけに逆張りすることは明確に違う。わたしがバニラアイスを選んであなたがチョコアイスを選んだとき、あなたがチョコを選んだのはそっちのほうが好きだからだとしたら、あなたは独立した精神の持ち主だ。だが、あなたがチョコを選んだ理由が、わたしがバニラを選んだからだとしたら、あなたは逆張りをしたいだけの人となる。 「ザ・リバー」は、本当は独立した精神の持ち主なのに、逆張りをしたいだけの人だと誤解されやすい。もし従来の習慣に従う確率が、わたしは99%であなたは85%だったとすると、数字のうえではあなたのほうが、反抗心が強いということになる。しかし実際には、あなたは世間の流れに従っているだけなのだ。 金銭に左右されない リスクテイカーは禁欲主義者ではないが、ポーカープレイヤーは次のふたつの理由でほかの人たちとはっきり違う。まず第一に、おそろしく勝ち負けにこだわるので、金銭はほとんどの場合スコアを記録する数字にしか見えていない。第二に、とんでもない大金を賭けて勝負していると、金銭感覚がある程度麻痺してくるのだ。 ネイト・シルバー | NATE SILVER 米国の統計学者、作家、セミプロのポーカープレイヤーであり、さまざまな出版物やサイトでスポーツや選挙の結果の分析を行なっている。Substackで自身のオンラインマガジン『Silver Bulletin』を配信中。最新刊は『On the Edge: The Art of Risking Everything』。 (Originally published in the January/February 2025 issue of WIRED UK magazine, translated by Terumi Kato/LIBER, edited by Michiaki Matsushima) Related Articles 『WIRED』の「THE WIRED WORLD IN 20XX」シリーズは、未来の可能性を拡張するアイデアやイノベーションのエッセンスが凝縮された毎年恒例の大好評企画だ。ユヴァル・ノア・ハラリやオードリー・タン、安野貴博、九段理江をはじめとする40名以上のビジョナリーが、テクノロジーやビジネス、カルチャーなど全10分野において、2025年を見通す最重要キーワードを掲げている。本特集は、未来を実装する者たちにとって必携の手引きとなるだろう。 詳細はこちら。.
世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。米大統領選の正確な予測で知られる統計学者のネイト・シルバーは、ポーカープレイヤーとしての経験から、リスクをいかにとるべきかを指南する。 政治について論評したり、選挙モデルを構築したりし始める前、わたしはプロのポーカープレイヤーだった。ギャンブルの世界で最もわたしを魅了するのは、人をある特定の行為に走らせるマインドセット──すなわち、わたしが「ザ・リバー(川)」と呼ぶ、ある種の人たちに共通するものの見方だ。 「ザ・リバー」とは、似たような考えをもつ人々の間に大きく拡がる生態系であり、そこには少額しか賭けないポーカーのプロから、暗号資産界の大立者やべンチャーキャピタルの億万長者まで、さまざまな種類の人間が含まれる。その考え方は分析的、抽象的、競争的、逆張り的であり、それは生き方にも表れている。大部分の「ザ・リバー」は金持ちでも権力者でもないが、金持ちや権力者は往々にして「ザ・リバー」である可能性が高い。 以下に挙げるのは、わたしがまとめた「極めて有能なリスクテイカーが実行している13の習慣」だ。「ザ・リバー」に属するリスクテイカーたちやその他の物理的リスクを果敢に引き受ける人たち──宇宙飛行士や深海の探検家たち、NFL選手など──の一定数は、たいていここに挙げたような共通項をもっている。これまでにわたしが研究した結果によると、あえてリスクを求めたうえでリスクをうまく制御できる人には、どうやら以下のような共通項があると思われるのだ。さてあなたには、どれくらいこの共通項が当てはまるだろうか? 圧がかかっても慌てない ほかの人が慌てているときに冷静でいられる人は少ないが、勝てるギャンブラーになるためには、それは必須の特質だ。日々の状況にどれだけうまく対処できるかは、この際関係ない。圧がかかったときにすぐに慌てて固まってしまうのでは、自分の力を最大限に発揮することは絶対にできない。 大胆さがある ポーカーやスポーツ賭博では、大部分のプレイヤーが賭け金を失う。その状況のなかで常にトップに立とうと思うなら、絶妙なバランス感覚が必要だ。ギャンブルに自信過剰は禁物だが、最強の相手とポーカーをするときには、気弱なところを見せてはいけない。 戦略的共感能力がある リスクテイカーは相手の立場に立って考えることができる。これは相手に対して感傷的に感情移入する、という意味ではない。心理学の研究によると、秩序立った思考(これは「ザ・リバー」の人たちが得意とする思考法だ)と感情移入を伴う行動の間には負の相関関係がある。戦略的共感能力は、ポーカーでは大いに役に立つ。なぜなら、ポーカーは数学的であると同時に人間的なゲームでもあるからだ。 結果でなく過程を重視する リスクテイカーは長期的視野に立ってプレイする。「結果だけにこだわるな」というのは、多くのポーカープレイヤーの頭のなかに深く刻み込まれたモットーだ。確かに、最終的には結果が物を言うのだが、「ザ・リバー」であることの利点のひとつは、「人の受け取る報酬は結局、客観的尺度に依存するものだ」と知っている点なのだ。 とにかくシュートを受ける リスクテイカーは自分が危険を冒していることを承知のうえでやっている。そして、失敗しても腐らない。ドラマ「ジ・オフィス」の米国版のあるエピソードで、憎めないがどうしようもなくアホな上司マイケル・スコットが、アイスホッケー選手ウェイン・グレツキーの言葉を間違って引用するくだりがある。「受けていないシュートは100%受けられない」。この言葉には、確かに一縷の真実がある。 「レイズか降りるか」の姿勢で臨む リスクテイカーは無難な手を嫌い、引くべきときはすぐに引く。ポーカーで犯しやすい最大の過ちは、たいていのプレイヤーがホールデムをやり過ぎること。ポーカーには基本的にコール、フォールド、レイズという3つの手があるが、ほとんどの人がコールボタンを押し過ぎる。そういう人は危険を冒したくないからだが、降りるべきときや、レイズするべきときにも往々にしてコールしてしまいがちなのだ。 常に備えている リスクテイカーが直感的に最善の判断を下せるのは、それまでに十分な訓練を積んでいるからであって、その場で適当に思い付いたからではない。プライべートエクイティ投資家であり探検家でもあるヴィクター・ヴェスコヴォが映画『トップガン マーヴェリック』を観ていて違和感を覚えるのは、トム・クルーズが危機一髪の状況に陥ったときに、そこから抜け出す方法を絶対にその場で考え出そうとすることだという。「最良の軍事作戦は非常に退屈なものであって、すべての事柄が計画通りに進み、誰も危険な目に遭うことはありません。リスクは最小限に抑えるべきなのです。『トップガン』は映画として観るにはおもしろいのですが、現実にはあんなやりかたで標的を始末しようとしたりはしません」 細部にも十分に気を配る リスクテイカーは注意を怠らないことが、得難い結果につながるのをよく理解している。ポーカーではゲームの最中に、自分にはやるべきことが何もない、という状況が頻繁に出現する。ゲーム中の大部分の時間は、ただ待っているうちに過ぎていくのだ。そういうときには、自分の精神的な処理能力を調整し、エネルギーを保存しつつ、必要なときはいつでも行動に移れるよう備えておく必要がある。 適応能力が高い リスクテイカーはたいてい万能選手であり、新たな機会を利用したり、新たな脅威に対応したりする能力も高い。「キツネ」と呼ばれるこのタイプのことを、ギリシャの詩人アルキロコスはこんなふうに描写している。「キツネは多くのことを知っているが、ハリネズミが知るのはひとつの大きなことだけだ」。キツネは機会を求めて走り回り、自己満足に陥ったり束縛され過ぎたりするのを警戒する。ただし、この習慣にはいくつかの例外がある。特に、スタートアップ企業の創業者たちは、ひとつの大きなことだけに真剣に注意を向け、10年後あるいはそれ以上の期間を見据えた対策を練るべきだ。 見積もり能力も高い リスクテイカーはベイズ統計学の実践者であり、自分の直感を定量化したり、不完全な情報を基に推理したりするのを好む。実際、90%と93%の違いは本当に重要なのだろうか? 溶け込むのではなく目立つことを選ぶ 独立した精神と目的は、高い能力の持ち主である印である。 逆張りを恐れない リスクテイカーは従来の知恵と言われているものが間違っているときにはそれに気づくし、それがなぜ間違っているかもわかっている。独立した精神をもつことと、逆張りのためだけに逆張りすることは明確に違う。わたしがバニラアイスを選んであなたがチョコアイスを選んだとき、あなたがチョコを選んだのはそっちのほうが好きだからだとしたら、あなたは独立した精神の持ち主だ。だが、あなたがチョコを選んだ理由が、わたしがバニラを選んだからだとしたら、あなたは逆張りをしたいだけの人となる。 「ザ・リバー」は、本当は独立した精神の持ち主なのに、逆張りをしたいだけの人だと誤解されやすい。もし従来の習慣に従う確率が、わたしは99%であなたは85%だったとすると、数字のうえではあなたのほうが、反抗心が強いということになる。しかし実際には、あなたは世間の流れに従っているだけなのだ。 金銭に左右されない リスクテイカーは禁欲主義者ではないが、ポーカープレイヤーは次のふたつの理由でほかの人たちとはっきり違う。まず第一に、おそろしく勝ち負けにこだわるので、金銭はほとんどの場合スコアを記録する数字にしか見えていない。第二に、とんでもない大金を賭けて勝負していると、金銭感覚がある程度麻痺してくるのだ。 ネイト・シルバー | NATE SILVER 米国の統計学者、作家、セミプロのポーカープレイヤーであり、さまざまな出版物やサイトでスポーツや選挙の結果の分析を行なっている。Substackで自身のオンラインマガジン『Silver Bulletin』を配信中。最新刊は『On the Edge: The Art of Risking Everything』。 (Originally published in the January/February 2025 issue of WIRED UK magazine, translated by Terumi Kato/LIBER, edited by Michiaki Matsushima) Related Articles 『WIRED』の「THE WIRED WORLD IN 20XX」シリーズは、未来の可能性を拡張するアイデアやイノベーションのエッセンスが凝縮された毎年恒例の大好評企画だ。ユヴァル・ノア・ハラリやオードリー・タン、安野貴博、九段理江をはじめとする40名以上のビジョナリーが、テクノロジーやビジネス、カルチャーなど全10分野において、2025年を見通す最重要キーワードを掲げている。本特集は、未来を実装する者たちにとって必携の手引きとなるだろう。 詳細はこちら。
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