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どこにでもいる男、ゾーラン・マムダニ

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どこにでもいる男、ゾーラン・マムダニ
ゾーラン・マムダニニューヨーク市長選ソーシャルメディア

ニューヨーク市長選で事実上の勝者と目されるゾーラン・マムダニ。巧妙なソーシャルメディア戦略で注目を集め、トランプ元大統領からの批判や暗殺リスクにも直面しながら、街頭で支持を拡大する。彼は、ニューヨーカーを魅了し続けるのか。

ゾーラン・マムダニ はどこにでもいる──文字通り。 この34歳のニューヨーク州議会議員は、ここ数カ月のあいだに、ほとんど無名の政治家から ニューヨーク市長選 における事実上の勝者と目される存在へと駆け上がった。すでに『TIME』『New York』『Vanity Fair』『The Nation』などの誌面を飾り、CNNやFOXニュースのキャスターと論戦を交わし、スティーヴン・コルベアと軽妙にトークを交わし、『The View』ではまるで命懸けといった様相でトーク番組の司会者たちとやり合っている。 マムダニのこの圧倒的な露出ぶりは、雑誌やテレビ出演から始まったわけではない。むしろ、そうした伝統的メディアへの露出や彼の“セレブ的”な人気の高まりは、ひとつの要素──すなわち「非常に優れた ソーシャルメディア 戦略」──の集合的な副産物にすぎない。 マムダニの最初のヴァイラル動画のひとつは、2024年に公開された、ニューヨーク在住の トランプ 支持者たちと彼が短く会話を交わす様子をまとめた“スーパーカット”であり、それが後の市長選キャンペーンの基盤を築いた。以降、巧みで会話的なショートクリップを軸とする選挙戦が展開されていく。 例えば「Very Cold Mamdani」:大西洋の氷水に飛び込み、家賃規制アパートの家賃凍結を誓う姿。「Sneakers Mamdani」:マンハッタンを縦断して歩き、政治家の“アクセス可能性”を訴える姿。「Citi Bike Mamdani」:通行人から「コミュニスト!」と叫ばれるなか、自転車でこぎ去る姿。そして「Red Rose Mamdani」:リアリティ番組『The Bachelor』をパロディにして、公平な未来を誓いながらニューヨーカーを“口説く”姿。そう、#ZaddyZohran のTikTokハッシュタグは、彼自身の存在と同じくらいに猛烈な勢いで増殖しているのだ。 しかし、マムダニが最近、マンハッタンにある質素な選挙キャンペーン本部で行なわれたインタビューの席でも認めたように、この過剰なまでの存在感には副作用もある。 ひとつは大統領ドナルド・ トランプ の怒りだ。 トランプ はマムダニを「100%共産主義者の狂人」と非難し、彼の逮捕をほのめかしたうえで、もしマムダニが11月の選挙でアンドリュー・クオモを破るようなことがあれば、ニューヨーク市に州兵を派遣するとまで脅している。 もうひとつは、マムダニ本人やキャンペーンスタッフに対する暴力のリスクだ。極右活動家チャーリー・カークが暗殺された最近の事件を受けて、その懸念は一気に高まった。マムダニにとってそれはつまり、「もう、ひとりになることはない」という現実を意味している。 しかし、マムダニのように常にどこにでも現れる人物にとって、安全なオフィスに身を潜めていられる時間は限られている。正確に言えば、たった45分だ。インタビューが終わるやいなや、マムダニは警護チームを伴って意気揚々と『WIRED』のフォトグラファーたちと共にマンハッタンの喧騒のなかへと繰り出す。イエローキャブの車内でポーズをとり、歩道を行ったり来たりしながら撮影に応じた。 「通行人が彼に気づいた」と言うのは控えめ過ぎる表現だろう。実際には、10分足らずのあいだに少なくとも5人が彼と自撮りをしていった。さらに、通りすがりの人々はキャンペーンの資料を受け取り、まるで“ザディ・ゾーラン”の一瞬の姿を見ただけで心を動かされたかのように、彼の8万人規模のボランティア軍団に加わりたいと申し出たのだ。 そしてもちろん、典型的なニューヨークらしい熱狂も忘れてはいけない。オフィスビルや車窓からマムダニの名前を叫び、通りの向こうやブロックの先から歓声を上げる──誰ひとり遠慮する様子もなく。 マムダニが市長となって、この熱狂する地元の支持者たち──数千人のボランティア、数十万人の有権者、そしてオンラインで見守る何百万ものフォロワーたち──を本当に満足させられるかどうかは、まだわからない。だがいまのところ、マムダニは新たに誕生したインターネットの寵児としての人生を、存分に楽しんでいるようだ。 通りの向こうの窓から彼の名を大声で叫ぶファンに、最後のひと振りを返すと、候補者とチームは再び、何の変哲もないオフィスビルの中へと姿を消した。エレベーターに乗り込み、そして多分、次のインタビューへと向かっていった。 ケイティ・ドラモンド(『WIRED』編集長): それじゃあ、まずは恒例のクイック・クエスチョンからいきましょう。準備はいいですか? ゾーラン・マムダニ : もちろん、いつでもどうぞ。 ── 1週間の平均スクリーンタイムはどれくらいです? 嘘はナシでお願いしますね。まだインタビューが始まったばかりですから。 正直に言うと、まだ見たことないんです。というのも、数字を見るのがちょっと怖くて。 ──つまり、限りなく高い数字ってことですね。 “高い”って、ずいぶん優しい言い方ですね(笑)。 ── ネットでの“ guilty pleasure ”、つい見てしまうものは? TikTokですね。 ──同じです。 最近はちょっと心配になるレベルですよ。いまぼくのアルゴリズムは、AIでつくられた「ジェイク・ポールがパンジャービー語で話す動画」ばかりなんです。 ── それはなかなか立派な“ギルティ・プレジャー”ですね(笑)。もしニューヨーカーのために市民向けアプリをひとつつくれるとしたら、どんな機能にしますか? 投票に関するあらゆる情報をまとめたアプリですね。どうやって投票するか、どこで投票できるか──そういった基本的な情報をひとつに整理したい。というのも、いまだに多くのニューヨーカーが次の選挙のことを知らないんです。期日前投票が始まっていて、登録締め切りは10月25日。でも、そんなことさえ知られていない。だから、ワンストップで全部わかる場所が必要だと思います。 ── ほんと、そうあるべきですよね。 政治って、そういうことが多い気がします。 ── 妻のラマ・ドゥワジさんとは(オンラインデートアプリの)Hingeで出会ったそうですね。何かアドバイスは? 希望をもち続けることですね。 ──念のためですが、わたしは既婚者です(笑)。 (笑)なるほど。 ──でもこれからの人たちには「希望をもて」と。 幸せな結婚生活を祈っています。 ──おかげさまで順調です、ありがとうございます。では、仕事のなかで本当に役立っているテクノロジーをひとつ挙げるとしたら? かなりローテクなんですが……目覚ましですね。あれがないと生きていけません。 ── 今朝は何時に起きたんですか? 7時半です。 ── それなら早過ぎないですね。 そう、たまにはそんな朝もあるんですよ。 ── テクノロジーは、民主主義を強くしていると思いますか? それとも弱くしていると思いますか? いまの使われ方を見る限りでは、弱くしていると思います。でも、それはテクノロジーそのものに本質的な問題があるわけではないと思うんです。 ── テック系の創業者と夕食を共にできるなら、誰を選びますか? 生きている人でも亡くなった人でも。 ヒュー・マーと食事をしたいですね。彼は「TurboVax」というサービスをつくった人なんです。これは、ワクチン接種の予約情報を政府の公開データから集約して、ニューヨーカーがずっと簡単に予約できるようにしたポータルサイトでした。コロナ禍の最中です。議員として、わたしは自分の選挙区の人たちに「政府のサイトで探すよりも、TurboVaxを使ってください」と勧めていました。実際、そのほうが確実に早く、検査やワクチン接種の予約ができたんです。 ── スティーブ・ジョブズと答えなかったのはさすがですね。たいていの人はそう言うんです(笑)。では話を進めましょう。ネット上でも存在感のある市長候補になる前、州議員になる前、コミュニティ・オーガナイザーになる前──あなたも、ただの子どもでしたよね。そして、その子ども時代はインターネットとともに育った。あなたをかたちづくったようなデジタル体験を少し教えてもらえますか? 早い段階からデジタルに親しんでいたタイプですか? 平日はテレビを観るのを親に禁じられていたんです。だから、Huluが始まった頃のことをはっきり覚えています。パソコンでテレビ番組が観られるようになって、子どもながらに「これは抜け道だ!」と思って(笑)、すごく楽しんでいました。 「アーリーアダプター」と言うのはちょっと大げさかもしれません。でも、かなりゲームはやっていました。『FIFA』『SimCity』『RollerCoaster Tycoon』『Championship Manager』(後の『Football Manager』)など。そういうゲームを通じて、チャットルームやオンラインの世界に入っていった感じです。 ── そのあたりのゲームのラインナップを見ると、すでに将来の政治的関心につながるものが多そうですね。 あとは、iTunesが始まった頃のことも覚えています。毎週「今週の無料ソング」が出ていて、それを楽しみにしていました。iPodを持っていて、その前はジョギングしても音が飛ばないソニーのウォークマンを使っていました。 こうした思い出の数々が、自分のなかで「テクノロジーとは何か」という感覚をかたちづくっていったのだと思います。 ── 大学時代にはパレスチナ支援の活動を組織されていて、その後もアクティビズムを続けてこられましたよね。リアルな現場での活動と比べて、デジタル上でのアクティビズムにはどんな違いを感じていましたか? どちらかがより効果的ということはありましたか? それとも、両者が連動していたのでしょうか? 正直に言うと、当時はデジタルの側面はまだかなり未発達だったと思います。もちろん活動の一部ではありましたが、それが特別な機能や価値を加えていたというよりは、どちらかといえばかたちだけのものでした。高校の頃から、政治的な議論といえば、Facebookのウォール上での応酬、みたいな感じだったんです。 ── いまでも、そういう議論は続いていますよね。 健闘を祈りますよ(笑)。 ── わたしも同感です。 大学では、何年かのあいだFacebookをほとんど使わなくなりました。唯一アカウントを残していたのは、ボウディン大学の〈Students for Justice in Palestine〉という団体のFacebookページを維持するためだけです。でも正直言って、それが現実の世界を変えるような力をもっていたかというと、ほとんど、あるいはまったくなかったですね。 ── そうですね。 当時のSNSは、単に情報を共有するための手段にすぎませんでした。でも今回のキャンペーンでいちばん刺激的だったのは、 ソーシャルメディア を「現実を映す鏡」として使うだけでなく、「その現実そのものを変える力」として活用できたことなんです。あの頃の自分は、まだそこまでの考えには至っていませんでしたね。 ── オンラインで育ってきた世代として、あなたにも当然デジタルフットプリントがあります。その多くはすでに掘り返され、からかわれたり、攻撃の材料にされたりもしています。週末に読んだ記事では、専門家が「市長選に出るなら、デジタルプロフィールは徹底的に消すべき」と言っていました。あなたはそうしましたか? ……してないですよね? ── ええ、明らかにしてません(笑)。 もししてたとしたら、最悪の消し方だったということですね。 ── その投稿をした犯人をクビにしたいと思ったことはありますか? あるいは ニューヨーク市長選 に出るにあたって、21歳の頃の自分をもう少し隠しておけばよかったと思うことは? あまり深く考えたことはありませんね。正直に言うと、政治の世界ではあまりにも多くのことが「人工的」になってしまっていると思うんです。つまり、本来の自分や、どんな環境で育ってきたかという現実から切り離された「つくられた自己」がどんどん生み出されている。 でも、自分がこれまでどんな人間だったのか、その過程や成長、一貫性、そして変化をちゃんと見せられることは、多くの人が政治の内外で経験していることのリアルな反映でもあると思います。 それなのに政治の世界では、いまこの瞬間の「あなた」というスナップショットだけを切り取って、それをもとに「この人はこういう人間です」と推測してもらおうとする。そこにはすごく違和感を感じるんです。 ── つまり、「これまでどんな自分であったか」ということですよね。 そう、「これまでずっとの自分」です。 ── あなたの最初期の動画のひとつに、 トランプ 支持者と対話しているものがありましたよね。いまやSNS上でのキャンペーンは驚異的な成功を収め、この選挙戦全体の象徴的なストーリーのひとつになっています。でも少し時間を巻き戻してみましょう。まだ支持率が1%にも満たなかった頃、あの ソーシャルメディア 戦略はどこから生まれたんでしょうか? おもしろいことに、いまその1%だったときの世論調査を見返していたんですが、あのときぼくは“Someone Else(誰かほかの人)”と並んでいたんですよ。名前ですらない(笑)。 ── 本当に “Someone Else”? そう。全候補者の一覧のあとにぼくがいて、その横に“Someone Else”。 ── つまり、「ほかの誰でもいい」ってことですね。 その通り(笑)。“Someone Else”、君には感謝してるよ。ぼくら、ついに君を抜いたからね。 ── いいですね、それ(笑)。 州議会議員に立候補した頃には、すでにアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員の2018年の選挙キャンペーンが大きな影響を与えていました。彼女のローンチ動画は、人々を魅了し、彼女の政治的な理念を誰もが理解できるかたちで凝縮して伝えていた。その成功を見て、 ソーシャルメディア 向けのローンチ動画をつくるという発想が、次第に定着していったんです。 ぼくが選挙に当選したあと、選挙活動とは別のかたちで、つまり立法面でのアドボカシー活動において、動画をどう活用できるかを考え始めました。いわば「選挙キャンペーンのように」政治のメッセージを伝える試みですね。 ──なるほど そのアプローチのひとつが、わたしたちが立ち上げた〈Fix the MTA〉というキャンペーンです。このときMelted Solidsというクリエイティブ・デュオと一緒に大規模なローンチ動画を制作しました。彼らはいまでもキャンペーンに関わってくれています。この動画では、MTA(ニューヨークの交通局)について語り、わたしたちがどのようにMTAを変えていくのか、そのための3つの柱をわかりやすく伝えました。 振り返ってみると、あの動画自体はそんなに多くの人に届いたわけではありませんでした。でもあのときは、「これまでのやり方やモデルを超えるアプローチがあるかもしれない」と感じた瞬間だったんです。そこから、さまざまな政治家たちがそれぞれに創意工夫をこらして、SNSを活用するようになっていきました。 最も代表的なのはオカシオ=コルテス議員ですが、ニューヨーク市議会議員のチ・オッセもそうですね。彼はTikTokやInstagramに最適化されたショートフォームのメディアを積極的に使っていて、これまで政治に関心のある一部の人しか気に留めなかったような課題を、ずっと広い層の人々にとって身近で関心のもてるものに変えていった。 そうしたことを考えていたころ、Melted Solidsのアンソニーとデブというふたりのメンバーと打ち合わせをしました。ぼくの自宅近く、アストリアにあるPye Boat Noodleという店です。そこでこう話したんです──このキャンペーンでは、単にデジタル活用でほかの候補を上回るだけでなく、そのメディア自体を自分たちのものとして使いこなし、まったく新しい表現をしたい、と。そして、たとえ多くのコンサルタントが「そんな投資はやめておけ」と言ったとしても、早い段階で本格的に取り組もうと決めました。 最終的に、毎月クオリティの高い動画を2本制作し、それに加えて、自分たちのiPhoneで撮影した短い動画を随時発信していくことにしたんです。 ── 今回のキャンペーンのなかで、SNS上で本当にたくさんのユニークで楽しい仕掛けをされてきましたよね。いちばん好きなもの、いちばん楽しかった、あるいはいちばん効果的だったと思うものはありますか? 最初に大きくバズったのは、ポーラーベア・プランジ(極寒の海に飛び込むチャレンジ)をやったときですね。 ── あれは見ていてこっちまで寒くなりました(笑)。 いや、本当にめちゃくちゃ寒かった(笑)。特に海から上がったあと、全身ずぶ濡れのまま凍えるような寒さのなかで、家賃安定委員会の9人の市長任命メンバーについて語るシーンを撮ったときは、ほんとうに大変でしたね。 ── でしょうね。 でも、あれはすごく楽しかったんです。実際のところ、撮影チームはぼくとアンドリュー・エプスタインだけ。彼は予備選のときには広報全体を仕切っていて、いまは本選のデジタル戦略を全部担当しています。使ったのは彼のiPhoneだけ。ぼくはスタインウェイ通りの古着屋で買った30ドルのスーツを着ていました。Melted Solidsのデブが編集を手伝ってくれて、結果的にあれはぼくたちが出したなかで最も再生された動画のひとつになったんです。 かかったお金は本当にわずかでした。でも、アイデアという意味では、ものすごくコストの高い挑戦でしたね。正直、ああいうことをやるには、少し恥をかく覚悟も必要です。でも、そういう自分をさらけ出す勇気があったからこそ、あの動画は人々に届いたのだと思います。 ── ちょっと「恥ずかしい話」といえば、あなたの対立候補たち──つまり、立候補を取りやめる前のエリック・アダムス現市長[当時]や、アンドリュー・クオモ元知事も、あなたのようなSNSでの成功を手に入れようと懸命に努力していましたよね。それを見ていて、どんな気持ちでしたか? アダムス市長のSNS戦略でいいと思うのは、ちゃんと「エリック・アダムスらしい」ということですね。彼の動画を見て、ぼくのものと取り違えることは絶対にない。模倣じゃない。完全に“アダムス節”です。 ── まさに。 彼が「仕事をしてるぜ!」って言いながら、実際には何もしてないように見える動画、あれは最高でした。 ── わかります。 朝9時にスムージーをつくってるって言ってるのに、背後の時計は11時を指してるんですよね。 ── あのズレが。 あれは脚本家でも思いつけないですよ。個人的にいちばん好きなのは、マイケル・ベイとリンキン・パークをミックスしたミーム動画ですね。 ── あれですね。 リンキン・パークの曲「What I’ve Done」が流れていて、キャプションが「POV: You’re the mayor(市長の視点から撮っている)」と書いてあるんだけど、画面のなかが完全に本人なんですよ(笑)。つまりPOVの使い方を間違えてるか── ── あるいは新しいフォーマットを開拓したか。 まさに! でもあの動画を見たあと、しばらくリンキン・パークの「What I’ve Done」をよく聴くようになりました。あれは市長のおかげです。 クオモのSNSの使い方は、もう少し「SNSで人気の若手に負けたから、おれもやらなきゃ」っていう反射的な感じがありますね。 ──まったくです。 ただ、再立候補の表明のときに着ていた、あの半袖スウェットはちょっと恋しいです(笑)。 ── ぜひもう一度着てほしい。まだ間に合うはずです。 お願いします(笑)。 ── あなたのSNS戦略の「副作用」のひとつは、言ってしまえば、そのあまりにも大きな成功ですよね。あなたはいま、オンライン上で超有名人です。つまり2025年のいま、それはそのまま有名人ということでもあります。わたしの家族はカナダに住んでいますが、みんな今日わたしがインタビューする相手を知っていました。それくらい、あなたはニューヨーク市の外、さらには米国の外でも、多くの人々に知られています。つまり、いま投票を訴えている有権者層を超えて、世界的に名前が知られているわけです。そのような注目度の高まりに、どのように対応してきましたか? まず、いくつか実務的な変化がありました。例えば最近は、オフィス内で撮影する動画がぐっと増えています。 ── なるほど。 その理由のひとつは、単純に外で撮影する時間が取れなくなってきたからなんです。いま「外で撮影する」ということが、もはや以前とはまったく違う意味をもつようになってしまった。でも同時に、それはとても美しいことでもあります。街で人々が足を止め、声をかけてくれるようになった──それは、このキャンペーンの当初からの目標のひとつ、「バブルを破る」という願いが現実になっている証拠でもあるんです。 特にうれしいのは、動画チームがどんどん成長していく姿を見ることです。成功すると、人はつい同じことを繰り返しがちです。ぼく自身、食べ物に関してもよくあるんですよ。ひとつ好きな料理を見つけると、飽きるまでそればかり食べてしまう(笑)。 ── ありますね。 でも、このチームのすばらしいところは、最初の成功で満足することなく、常に新しい工夫を探し続けているところです。どうすればメッセージの一貫性を保ちながら、使うメディアのかたちや表現方法を進化させられるか?──チームは常にそれを考えている。それはこの政治プロジェクトにとって、刺激的であると同時に、不可欠な姿勢でもあります。わたしたちは決して成功にあぐらをかくことはできないんです。 ── あなたはこれまで、『Time』や『New York』といった雑誌の表紙を飾り、The Late Show、The View、CNN、MSNBCなどにも出演されています。わたしは『WIRED』の編集長としてここに来ていますが、今月だけでコンデナスト系の媒体としては3つ目のインタビューですね。『Glamour』の編集長あたりも、いまきっと外で順番を待っているんじゃないかと思います。こうした露出の多さについて、「出すぎ」になる懸念はありますか? 正直、あまり考えていません。露出が多すぎるかどうか──その判断は、広報チームに任せています。 ── 仮にあなたが市長に就任したとして、 ソーシャルメディア の使い方はどう変わるのでしょう? つまり、選挙のためのツールとして使う段階から、行政のためのツールとして使う段階へどう移行していくと考えていますか? そうですね、まずはアダムス市長の動画を真似しますね。 ── なるほど、やっぱりインスパイアされてますね。 「ニューヨーク市長の視点:ぼくはいま“仕事をしている”」──そして背景には時計を置いて… ── しかも、その時計はいつ見ても11時。 そう、ずっと11時(笑)。アダムス市長は、ひとつのお手本を残してくれました。 これからも、その使い方についてはいろいろ模索していくことになると思います。ただ、 ソーシャルメディア というのは「現実から逃避するための場所」として語られることが多いですよね。でも、わたしたちのチームがワクワクしているのは、それを「この世界の物語を語り、変えていくための手段」として使おうとしている点なんです。 このメディアを活用したことで、いまや85,000人を超えるボランティアが集まるキャンペーンをつくることができました。その多くの人たちは、最初は1本の動画やツイート、1枚の写真を通してこの運動に出合ったんです。 最近は、キャンペーン用のステッカーデザインを一般募集したのですが、何百人ものアーティストが作品を送ってくれました。そして何千人もの人が投票に参加してくれた。その後、優勝したアーティストがオフィスに来てくれて、直接会って彼がどんな人で、どんな思いであのデザインをつくったのかを知ることができたんです。こんな出会いが生まれたのも、すべて ソーシャルメディア があったからこそなんですよ。 ──なるほど。 先日のスカベンジャーハント(街中を舞台にした宝探しイベント)では、オンライン上の呼びかけだけで、ニューヨーク市中からおよそ5,000人もの人々が集まりました。画面の向こうにいた人たちが、いまこうして現実の場で出会い、つながっているんです。 この前、ブロンクスで行なった「紙のシュレッダー回収イベント」にいたときのことです。ひとりの女性が近づいてきて、ご両親が抱えている問題について真剣に相談してくれました。話の最後に、彼女はこう言ったんです。「あなたに最初に会ったのは、あのスカベンジャーハントのときでした」と。こうした瞬間にこそ、 ソーシャルメディア が本当に「世界を変える力」をもっていることを実感します。 ──そうですね。 だからぼくは、 ソーシャルメディア そのものに本質的に良い悪いという性質があるとは思っていません。すべては、そのツールをどう使うか次第なんです。政治においても、できるだけ多くのニューヨーカーに語りかける手段であり続けるべきだと思います。なぜなら、いまや多くの人がニュースも、自分のアイデンティティも、この街への感覚さえも、日々触れている ソーシャルメディア から得ているのです。そこを無視するのは、現実を無視するのと同じです。だからわたしたちは、そこに「いる」だけではなく、このメディアを真剣に、正当な情報空間としてどう扱うかを考えていかなければならないんです。 ソーシャルメディア への政治的アプローチは、若者への政治的アプローチと切り離せないとも思っています。どちらに対しても、しばしば上から目線の態度が見られます。「そこまで深く考えなくていい」とか「勉強するほどのものじゃない」と。でも実際には、ほかのどんな媒体よりも、むしろより多くの時間と洞察、準備が必要なんです。その姿勢を見せれば、人々はきちんと向き合ってくれる。若者だって、ほかの世代と同じように、同じ関心やリスクや結果をもつ存在として扱えば、ちゃんと応えてくれるんです。 Instagramの動画を撮るときにも、新聞や雑誌のインタビューに臨むのと同じくらいの準備をして臨めば、もっと多くの人々に届く可能性がある。それを実感しています。 ── あなたはさきほど、「いまは安全上の理由もあって、街頭よりもオフィスで動画を撮ることが増えている」と話していましたね。あなたは非常に可視的な存在です。肌の色のこともありますし、自ら「民主的社会主義者」を名乗り、ムスリムでもある。さらに、ガザ問題やLGBTQIAコミュニティへの姿勢など、いまの米国社会の一部の人々にとっては受け入れがたい価値観を掲げています。 ご存じのとおり、この国では近年、政治的暴力が確実に増えています。あなた自身も街頭で罵声を浴びたり、殺害予告を受けたりしてきた。スタッフの方々も同様です。 特に、先日チャーリー・カークが暗殺された事件を受けて、ご自身の安全や露出のあり方について考え方が変わったところはありますか? 暴力のリスクについて、どう向き合っているのでしょうか? そして、それはあなたの選挙運動に、さらには「市長としての自分」にどんな影響を与えていると思いますか? この愛する街を歩くときの自分のあり方を、恐れによって変えるようなことはしていません。ただし、当然ながら自分だけでなく、スタッフやチームの安全のためにも、あらゆる注意を払う必要があります。というのも、あなたが言及したように、脅迫の矛先はわたし個人だけではなく、周囲のチームメンバーにも向けられているからです。実際、いまのわたしはひとりで行動することはありません。 つまり、わたしへの脅威は、わたしのすぐそばにいる人々への脅威でもあるということです。以前なら、例えば電車に乗り遅れたら、すぐにCiti Bikeをつかまえて全力で目的地までこぐ、そんなことはごく自然な行動でした。でもいまは、常に警護チームが同行しています。どこへ行くにも、どう移動するかを一つひとつ、より慎重に計画し、交渉する必要があります。 それでも、それは少し時間がかかるというだけであって、電車に乗るのをやめたり、自転車に乗るのをやめたり、バスを使うのをやめたりする理由にはなりません。この街をどう移動するかということは、この街をどう「見る」かということに直結していると思うんです。黒いスモークガラスのクルマに乗って移動してばかりいたら、あなたが目にする唯一のニューヨーカーは、窓に映る自分自身の姿だけになってしまうでしょう。 ──そのとおりですね。 そうしたことこそが、政治家たちが本来あるべきかたちで市民と関わらなくなる一因だと思うんです。わたしの願いでもあり信念でもあるのは、ニューヨーカーが生きるこの街を、同じように生きることです。電車に乗り、バスに乗り、自転車に乗る。米国でいちばん遅いバスの“痛み”というのは、実際にそのバスに乗ってみないと分かりません。 例えば、M57に乗って、時速4.

9マイル(約8km)でノロノロと記者会見に向かっているとき──その遅さこそが、なぜわたしたちが「バスをもっと速く、そして無料に」と訴えているのかを、自分自身にも、周囲の人たちにも思い出させてくれるんです。こうした“思い出させてくれる瞬間”こそが大事なんだと思います。そうやって、自分が本当に仕えるべき人々から、決して切り離されないでいられるのです。 ── 今年の『WIRED』が大きく注目してきたテーマのひとつに、「テック業界のリーダーたちとトランプ大統領との関係」があります。そして、そのテックリーダーのなかには、あなたがニューヨーク市長になることをあまり快く思っていない人々も少なくありません。なぜいま、テクノロジーのリーダーたち──もう少し広く言えば、ビジネスリーダーたちが──これほどまでに右派へと傾いてしまったのだと思いますか? そして、どうすれば彼らを再びこちら側に引き戻すことができるでしょうか? この夏、わたしは多くのビジネスリーダーたちと会ってきましたし、いまもその対話を続けています。ある週には、まずニューヨーク市経済協議会で、何百人ものトップCEOたちと会い、その翌日にはテック業界のリーダーたちとの会合がありました。 そのテック業界の人々との会合でとても興味深く感じたのは、業界を突き動かしている精神(エートス)と、わたしたちが掲げている政治のあり方との間に、多くの共通点があるということです。つまり、「ハングリーであること」「現状を受け入れないこと」、そして目の前にある政治やビジネスのスタイルを革新し、時に破壊的に刷新していこうという意欲です。 こうした姿勢は、ここ数カ月でテック業界のリーダーたちと築いてきた関係の土台になっていると感じています。わたしたちは「公共の領域に卓越性をもち込む」ことを目指しています。そしてすでに存在する卓越性の上にさらに新しい価値を築き、これまで市民に与えられてこなかったものを届けていく。そのためには、現在の市政のあり方を正面から見つめ、そのなかにある「失敗」としっかり向き合う必要があるのです。 ──なるほど。 少なくともわたしに言わせれば、「効率」や「不正」「無駄の排除」といった言葉が、いつの間にか右派政治や、あるいはイーロン・マスクのDOGE(米政府効率省)的スローガンの代名詞のようになってしまったことは、とても残念なことです。 本来、真に価値ある進歩的な政治というのは──つまり働く人々に焦点を当てた政治というのは──その人々の生活の質をどう向上させるかを考えるものであり、提供する公共サービスの効率性をどう高めるかを追求するものであり、そしてその過程における不正や無駄を決して容認しないものであるはずです。 そう考えると、テック業界の人々とも、多くの分野で協力の可能性が開けてくるのだと思います。実際、わたし自身も多くのリーダーたちが意外なほどオープンな姿勢をもっていることに驚かされています。 もちろん、このキャンペーンに反対する人々もいるでしょう。それは当然のことです。けれどわたしは、常にすべての人に対して扉を開いておきたいと思っています。自分の立場を説明し、この街における成功のビジョンとは、誰かを排除する成功ではなく──ビジネスリーダーも、そのもとで働く人々も、そして新しく加わる人々も──みんなが共にこの街にとどまれる成功であるということを、しっかり伝えていきたいのです。 ── ここ数週間、あなたは移民・関税執行局(ICE)や、ニューヨーク市への州兵の派遣について多くの質問を受けていますよね。同じタイミングで、アップルやグーグルが「ICE追跡アプリ」をストアから削除したことで、大きな注目を集めました。これらのアプリは、特定の地域でICEの動きが目撃された際に、コミュニティに通知できるというものでしたが、トランプ政権はこうしたプロダクトに対して強く非難の声を上げています。こうしたテック企業の判断について、あなたはどうお考えですか? わたしは、それは誤った決定だと思います。いまこの国で起きているのは、明確に「人々を脅かす行為」です。そしてそれは、遠いどこかの街で起きていることではなく、まさにわたしたちがいま座っているこの街でも起きているのです。 先日、イースト・フラットブッシュの牧師と話をしました。礼拝のあと、ある信者の女性が彼のもとに来て、自分が強制送還命令を受けたことを打ち明けたそうです。彼女には、マンハッタンの連邦プラザ26番地(移民裁判所)に同行してくれる人が誰もいませんでした。そこで牧師は、彼女と一緒に裁判所へ行ったのです。 審理の最中、判事は彼女にこう尋ねたそうです。「あなたはいま、祖国へ戻る準備のできた服を着ていますか? ご家族には、今日あなたが送還されることを伝えましたか?」その瞬間、彼女は泣き崩れました。 最終的に、その判事は彼女に一時的保護資格を与える決定を下しました。しかし、外で待っていたICEの職員たちはそんなことにはお構いなしです。牧師は急いで、外にいた裁判監視の市民ボランティアたちに声をかけ、職員の注意をそらすよう指示し、もうひとりの支援者にエレベーターを呼びに走らせました。そして牧師自身がその女性を腕で抱きかかえ、エレベーターに飛び乗って、彼女を連邦ビルの外へ救い出したのです。 これが、この街に、そしてこの国中で起こっているICEの現実です。ICEの施設の外で抗議していた神父が、頭をゴム弾で撃たれた事件もあれば、「法の執行」という名のもとで人々が非人道的に扱われている現実もある。それは「法の支配」という言葉そのものへの裏切りです。いまこの国に生きるすべての人々が、この状況の根底にある権威主義化を理解し、そして自分たちにできるあらゆる手段を使って、すべての人の尊厳を守るために立ち上がらなければなりません。 ── 『WIRED』は基本的に「未来への楽観主義」を掲げるメディアです。あなたのキャンペーンも、非常に楽観的なトーンで貫かれています。ただ、編集長としてのわたしの考えを言えば、いまの時代における楽観主義というものは、数年前とはずいぶん違ったかたちをしていると思うのです。いまわたしにとってのオプティミズムとは、例えば「国家警備隊がニューヨーク市に侵攻しないで済むこと」、そんなレベルかもしれません。あなたにとって、「いまの時代のオプティミズム」とはどんなものですか? わたしにとってのオプティミズムとは、よりよい世界の「兆し」を、いまこの瞬間のなかに見失わないことだと思います。わたしたちが本当にふさわしい世界を築くためには、確かに膨大な努力が必要です。けれども、その世界をかたちづくる素材は、すでにわたしたちの身のまわりに存在している──それを見落とすことこそ、未来に対する不誠実だと思うのです。 どれほど残酷な出来事が続こうとも、そのただなかで、ニューヨーカーや米国の人々が、わたしたちがもっと広いスケールで見たいと思う人間性を、政治の構造にこそ根づかせたいと思う優しさや連帯を、日々の行動のなかで見せてくれている。そこにこそ、新しい世界を築くための希望があると信じています。 ニューヨーカーは「他人に構う暇なんてない人たち」と言われがちですが、ぼくはむしろ、わたしたちは急いでいるけれど、親切な人たちだと思っています。ADA(障害者法)の基準を満たしていない駅であっても、ベビーカーを抱えた若い母親を手伝おうとする人がいる。そうした制度の隙間を埋める小さな助け合いのなかに、ぼくは、わたしたちが目指すべき世界の片鱗を見ています。 ── もし11月の選挙であなたがニューヨーク市長に当選したとしたら、最初のSNS投稿はどんな内容にしますか? 「エリック・アダムズ動画」みたいに、「POV(視点):あなたはいまニューヨーク市長です」ってやつをやりたくなりますね。 ── 最後にまたその言葉ですね。 まあ、インシャラー(神の思し召しのままに)。 ── 結果を楽しみにしています。 ありがとう、そして……リンキン・パークに感謝を。 (Originally published on wired.com, edited by Michiaki Matsushima) ※『WIRED』によるThe Big Interviewの関連記事はこちら。 MAGA、ゾーラン・マムダニの勝利に反応──「ニューヨーク市は“陥落”した」 ゾーラン・マムダニを“推す”ファンダムが生んだコンテンツのパワー 気鋭のAI研究者たちやユヴァル・ノア・ハラリが語る「人類とAGIの未来」。伝説のゲームクリエイター・小島秀夫や小説家・川上未映子の「創作にかける思い」。大阪・関西万博で壮大なビジョンを実現した建築家・藤本壮介やアーティストの落合陽一。ビル・ゲイツの回顧録。さらには不老不死を追い求める富豪のブライアン・ジョンソン、パリ五輪金メダリストのBガール・AMIまで──。未来をつくるヴォイスが、ここに。グローバルメディア『WIRED』が総力を結集し、世界を動かす“本音”を届ける人気シリーズ「The Big Interview」の決定版!!詳細はこちら。

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