人間であることには、はたしてどんな価値があるのか ── その定義がいまほど問われている時代はない。日本では未邦訳の注目の近刊『A.I. Snake Oil』や『The A.I. Mirror』を読み解きながら人間の現在地を探る、『The New Yorker』の論考。
先日、髪を切りにいったとき、担当の美容師が人工知能（AI）の話題を振ってきた。「わたし、AIを使って、彼女に宛てた詩を書かせてみたんですよ。書きたい内容は伝えましたけど、韻をうまく踏めないのでAIにやってもらいました。彼女、それを読んで涙流して、女友達にも見せたんだそうです。その女友達は頭がいい子だから、きっとバレると思いました」。チョキチョキとはさみを動かしながら、美容師はそう語った。「それが、バレなかったんです」...
Snake Oil: What Artificial Intelligence Can Do, What It Can’t, and How to Tell the Difference（AIという偽薬：人工知能にできること、できないこと、その見分け方）』［未邦訳］のなかで、共著者であるふたりのコンピューター科学者、アーヴィン・ナラヤンとサヤシ・カプールは、この問題に現実的なレベルでアプローチしている。ふたりは懐疑的な考え方を推奨したうえで、「AI」という包括的な用語を使っているために、それがいわば煙幕のようになって、技術の不充分さが隠されていると論じる。「さまざまな交通手段を表す言葉が足りない世界を想像してみるとよい。『乗りもの』という総称しかない世界である」、と同著は述べる。そうした世界では、「『乗りもの』は環境にやさしいかどうか、という激論が巻き起こる。一方は自転車について論じていて、もう一方はトラックについて話しているとも気づかずに」。それと同じように、「AI」という用語も、まったくレベルの違う機能をもつ多種多様な技術が一括りにされているのだ、とふたりは言う。...
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