アーティストチャールズ・リンゼイ氏と真鍋大度氏が、OpenAIの動画生成AI「Sora」を用いて生み出す映像作品について語る。リンゼイ氏の禅とアニミズムに焦点を当てた作品制作を通して、AIが人間の意識をどう変容させていくのかを考察する。
この展覧会のコンセプトは、リンゼイ氏がNASAに対して“火星の退役探査機を使って禅庭を作る”という提案をしたことに端を発しており、そのアイデアはさらに発展し、パンデミック初期にリンゼイ氏が“AIと意識に関する疑問”を禅僧の伊藤東凌氏に投げかけたことで新たな展開を見せた。この問いに興味を惹かれた東凌氏は、リンゼイ氏の作品を建仁寺両足院で展示することを働きかけたという。 作中では、京都の枯山水と日本の駐車場にあるパーキングメーターが融合した奇妙でポップなシーンが描き出されるなど、一見シュールな組み合わせではあるが、そこには人間の認識のはかなさや無常を強く意識させる仕掛けがある。
リンゼイ氏はこの個展の前、伊藤東凌氏との対話を重ねて｢公案｣を学び｢人間は足に魂（精神）が宿る｣などという発想を元に、動画生成AIで独自のビジョンを描いたという。仏教や禅の概念を下敷きにしつつも、パーキングメーターや枯山水といった日本的なモチーフを大胆に組み合わせ、見る者に｢モノが意識を持つ｣という疑問を問いかけてくる。このユーモラスなアプローチにこそ、リンゼイ氏が探求しているアニミズム的な思想や、テクノロジーと人間の意識下における相互作用といったテーマが詰まっているのだろう。｣と即答していた。アニミズムの考え方を起点に、生成AIによって新たな物語を紡ぐ。そこでは、人間の想像力とテクノロジーとが渾然一体となり、AIによって相対化される人間の“意識”そのものを別の角度から見つめ直す機会が生まれるのだ。前述のとおり、ちょうどこの日の朝方にOpenAIから動画生成AI｢Sora｣の一般提供開始が発表された。これまで限られたアルファテスターの手にしか渡らなかった最先端の生成AIが、いよいよ多くのユーザーの手に届く。 静止画の生成AIはすでにMidjourneyやStable Diffusionなどで実用化が進んでいるが、動画に関してはまだまだ未知の分野だ。そうしたタイミングで、Soraのアルファテスターを務める真鍋氏とリンゼイ氏が、実際にどのようにSoraを使いこなし、どんな映像表現を生み出しているのか。その生々しい話を聞ける機会は貴重といえる。 生成AI技術は、どこまで人間の創造力を補完し、あるいは超えていくのだろうか。この問いは、アーティストにとっても深遠でありながら、テクノロジー企業や研究者にとっても大きな関心事である。真鍋氏によると、Soraが公開したデモ作品と同一のプロンプトを入力してみても、必ずしも同じクオリティの映像が得られるわけではなく、まだバラつきや生成結果の“ブレ”が大きいという。だが彼は、｢このブレこそが面白い｣と語る。なぜなら偶発的なビジュアルの生成によって、人間の想定を超えたアイデアを引き出せるからである。自宅でのペットのスナップ写真を素材にしながら、森や砂漠といった異なる風景をモーフィングしていく柴犬の姿を、いくつも生成し続ける。ときには犬の形が崩れたり、奇妙な色彩のパターンが混じり込んだりするが、それも含めて｢どう解釈するか｣は作り手に委ねられるのだ。興味深いのは、チャールズ・リンゼイ氏と真鍋大度氏がそれぞれに異なる視点からAI技術を捉えながらも、生成AIの未来について共感を示していた点である。リンゼイ氏は、哲学的な思考実験からスタートし、｢AIが悟りを開いたらどうなるのか？｣という問いを軸に作品を生み出すタイプのアーティストだ。彼の作品には、アニミズムや禅的な発想が含まれ、その背後には“人間の意識”とは何かを突き詰めようとする真摯な探究がある。 一方、真鍋氏にはアーティスト／プログラマーとしてのバックグラウンドがあり、生成AIの｢プロンプトとの対話｣やアルゴリズムの不確定性に着目している。彼はリオ五輪閉会式でのAR演出など、大規模なテクノロジープロジェクトを成功に導いた経験から、AIやアルゴリズムをパフォーマンスの一部として取り込み、“リアルタイム”にアップデートしていく手法を得意とする。今回のトークでも、Soraの生成結果がまだ不安定であることを逆手に取り、あえて“ブレ”を楽しむことで新たな美学が生まれる可能性に期待を寄せていた
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