<書評>『究極の沖縄農業と新しい観光』 高付加価値化を展望 - 琉球新報デジタル
現在、東京銀座・有楽町周辺には20を超える全国各地方の物産を扱う「アンテナショップ」がある。1994年、その先駆けとなったのが「銀座わしたショップ」だ。その生みの親である著者は「そこでは単なるモノの販売ではなく、モノを通じたわれわれの文化の発信・浸透をする」とし、その後の発展は周知のものだ。この企業家として地域発展を重視する実践哲学は本書にも貫かれている。
しかし、筆者の重視する沖縄のものづくり産業は低迷し、今や第2次産業は建設業を含めても約16%、第1次産業は約2%という産業構造にある。また、けん引産業とされる観光業も粗利率の低さから住民所得を押し上げる経済効果は低いと断じる。そこで沖縄のものづくりの要石をあらためて「農業」とし、これをより高付加価値になるよう課題分析する。ここでの分析視覚は「農」と「業」との捉え直し、これらの沖縄らしい融合である。すなわち農とは農耕を通じた営みや相互扶助などの文化であり、業とはビジネスそのものだ。これに沿うと、日本農業はビジネス視点が薄く、業として自立しきれず、沖縄農業はこれを追ってはならないと警鐘を鳴らす。 沖縄農業には、消費地の都市部から離れた地理的制約、土壌的特徴、そして厳しい日差しや台風等独自の天候的制約があるが、こうした制約条件には種苗開発、栽培工程管理、機械化、そして灌漑(かんがい)技術の改善といった技術力と消費マーケットでの経営力により、国や地域の規模とは無関係に国際的な競争優位を持ちうることを台湾、深〓(しんせん)、バリ島などの事例から明らかにし、沖縄農業の高付加価値化を「レジャー農業」として展望する。
また、来県観光客数の増加を含め、沖縄県域は既に消費地として都市化を遂げており、来県者に農を通じた生活文化の体験やこの地の物産を飲食し購買する「農業の観光化」が「輸出」と同じ効果をもたらすとする。沖縄のものづくり産業の屋台骨を農業の6次産業化の道筋から示す熱意に満ちた書である。
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