「東のハリウッド」とも呼ばれた映画の都・香港。戦後、映画産業はこの地を取り巻く政治・経済に左右されつつも、映画人たちは時代に合った作品を作り、世界に挑戦してきた。映画に映し出された香港の現代史を立教大学教授の倉田徹氏に解説してもらう。◇（1）国共内戦下で映画産業が成長 思想の対立が生んだ多様性第2次大戦中の3年8カ月にわたる日本軍の占領から解放された香港は、戦後再び英国植民地となった。しか
78年、中国で鄧小平が権力を掌握すると、英国は中国との交渉に動いた。当初英国は、香港を発展させた実績を強調し、植民地統治の継続を主張したが、中国の香港回収の意志は固かった。84年、両国は97年の香港返還と、返還後の香港での「一国二制度」の実施を決定した。中国が「史上例のない実験」と称する統治方式の成否に、日本を含む世界の注目が集まった。「インファナル・アフェア」（2002年）は香港返還後の最後の輝きを放った作品のひとつ ©Alamy Stock Photo/amanaimages
1997年7月1日の香港返還直後、香港映画は全盛期最後の輝きを放っていた。警察とマフィアのスパイが相互に交錯する「インファナル・アフェア」シリーズ（2002年〜）は米国や日本でも翻案される名作となったし、周星馳の「少林サッカー」（01年）や「カンフーハッスル」（04年）は世界で爆笑を誘った。しかし、映画マニアまたは香港ファンの枠を超えて、日本で一般に幅広く見られた香港映画は、これらが最後ではないか。なぜなら、香港映画が対象とする市場が変わったのである。
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