過去100年にわたる男女の体格差の変化を調査した研究結果について解説。食生活と保健医療の改善により男女ともに身長と体重が増加している一方で、男性の方が女性の増加率が大きく、体格差が拡大している。研究チームはこの現象を、女性が体格の良い男性を選ぶ傾向と結びつけて考察している。
人間において、男性は女性に比べて平均的に身長が高く、筋肉質で体重も重い。先行する研究によると、この体格差は、男性が女性を巡って争っていたと考えられており、過去には体格の良い男性が優位に立つのを助けて、長い年月を経て体格の大きい男性ばかりが残ったと考えられている。しかし、現代ではそのような争いは少なくなっているにもかかわらず、人間の体格はますます大きくなっている。イタリア・ジェノバ大学のデビッド・ジョフレ氏らのチームは、多くの種に見られる性的な体格差 (Sexual size dimorphism) と、多くの国で男性の方が女性よりも体格が良いことを指摘し、時代とともに人間の性別による体格差が変化しているのかを調査した。ジョフレ氏らのチームは、WHOのデータベースにアクセスし、1900年まで遡る世界62カ国の約13万5000人のデータを分析した。その結果、食生活と保健医療の改善により、男女ともに身長と体重が増加していることがわかっている。特に顕著なのは年代による男女の体格差だった。ジョフレ氏らのチームは、長寿、知識、人間らしい生活水準の3つの分野から算出される各国の「人間開発指数
(HDI)」を用いて、このHDIと各国の平均身長と体重のデータと結びつけて分析した。HDIは0から1までのスコアで表され、HDIが0.2ポイント増加するたびに、女性の平均身長は約1.68cm、体重は約2.7kg増加していることがわかった。一方、男性の平均身長は約4.03cm、平均体重は約6.48kg増加しており、およそ100年の間に男女の体格差に大きな開きが生じていることが明らかになった。ジョフレ氏らのチームはイギリスに焦点を当ててさらに分析した結果、イギリスの人口におけるHDIは1900年の0.8から2022年には0.94に上昇していたこと、男性の平均身長は170cmから177cm、4.12％上昇したのに対し、女性の平均身長は159cmから162cm、1.89％の上昇にとどまっていたことを突き止めた。このように、過去100年以上にわたって男女の体格差が広がっていることについてジョフレ氏らのチームは、「各国の女性が、体格の良い男性をパートナーに選び続けた結果かもしれない」と論じている。研究に携わったローハンプトン大学のルイス・ハルシー教授は、「これを視野に入れると、1905年生まれの人で男性よりも背の高い女性は約4人に1人だったが、1958年生まれだと約8人に1人に落ちる」と指摘した。また、ジョフレ氏らのチームが身長と体重をジニ係数と関連付けて実施した調査では、ジニ係数が1単位増加するごとに、すなわち不平等が大きくなるごとに、女性では平均身長は約0.14cm、男性では約0.31cm減少していたことも明らかになった。体重の場合、女性では約0.13kg、男性では0.39kg減少していた。このことについてジョフレ氏らのチームは幼少期の生活環境との関連性を指摘し、貧しい環境で育った人ほど栄養不足で十分に成長できなかった可能性があると指摘している。男女に差が生まれた点については、女性は男性より身長が小さく、代謝に必要な臓器が小さいため、環境による栄養素やカロリーの変動の影響を受けにくいのではないかとジョフレ氏らは考察している。ジョフレ氏らのチームは、男性の方が幼少期の生活環境に影響を受けやすく、また体格が大きいほど健康上の問題に起因する病気を抱えやすいことから、「男性はメンテナンスと発達コストが増加している」と指摘している。また、今後集団の健康状態の変化を追跡する研究においては、発育条件や生活環境に基づく追跡調査が必要だと述べている
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