これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。その唯一無二の観察眼と瑞々しい筆致で、多くのファンに読み継がれている文章家・武田百合子。食通やグルマンの目線とは一線を画す、「食」の語り口とは。
改めて言うまでもないことだが、優れた文章家は必ずや「いい眼」の持ち主でもある。それを体現する一人が武田百合子だろう。夫である小説家・武田泰淳の死後、50代から自身の執筆活動をスタートさせたため、生前に遺した作品はわずか5作。しかし寡作ながら、泰淳との富士山麓の別荘暮らしを綴った『富士日記』や、驚くほどのコミュ力と洞察力とが随所に散りばめられた旅行記『犬が星見た -ロシア旅行』など、ひとつひとつが唯一無二の名品なのだ。
ただ見ているのではない、瞬時にものの真意を見通す揺るぎない眼力で、美辞麗句などは用いず、天真爛漫でまっすぐな語り口。そこには温かさとユーモアが息づき、時にドキリとするようなものごとの“陰(かげ)”の部分もさらっと描写する。そうした比類なき才能に埴谷雄高は「天衣無縫の文章家」と最大限の賛辞を送っている。 “おべんと御飯”とは煎り卵と揉み海苔の混ぜご飯を指す造語で、蓋を開けた時に、この“おべんと御飯”か“猫御飯”(おかかと海苔をご飯の間に敷いたもの)であればその日はご馳走である。また、梅干しのまわりでは薄牡丹色に、沢庵のまわりでは黄色く染まったご飯粒の一粒一粒もご馳走だ。虚弱児童で食が細かった小学生の百合子さんは、きっと一粒一粒、しげしげと観察しながら味わったことだろう。
周りで楽しげに会話を交わす他の客たちも、やってきたオムレツを頬張ると、みな一様に元気を失っていく。訪れる客をもれなく黙らせるほど具体的な「まずい味」を作り出す店にも驚くが、「なぜ、どうまずいのか」について特に言及することなく情景を淡々と描写していく筆さばきがみごとで、引き込まれずにはいられないのだ。
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