パワハラ、セクハラ、ジェンダーバイアス、人種差別。さまざまな現代の社会問題をとあるひとりの指揮者に託したかのような『TAR/ター』。アカデミー賞6部門にノミネートされた今作は観る者に大きな問題定義を投げかける。
にはタネ明かしが存在しない。主人公・ターと関わる人々との関係性や過去に起きた出来事など、匂わせてはシーンが切り替わり、“それ”が実際にどうだったを最後まで確かめることができない。だから面白い。観る人によって受け取り方や分析が変わっていく。を愛する心やいかに世界が音楽という芸術で満たされているかを誰よりも知っているようにも見える。きっとどこかで「人を幸せにするためにタクトを振ってきた」のに、「タクトを振り続けるために人の愛情を軽視」する人になってしまった。自分はこんな立場には絶対になりたくない。でも権力を持った時、誰もが傲慢になり、また、盲目となって心が支配されてしまうのかも——そう思わせるホラーな側面も今作の見どころかも。「模倣からは芸術は生まれない」と発言しながらも、過去のヒーローたちをリファレンスにしていく。Photo: © Focus Features /Courtesy Everett...
リディア・ターを眺めていると必ずこう思うはずだ。「これって、おっさん？」（おじさんというカテゴリーを否定しているわけではありません。理由はこの後）。妻がいながら、自らが興味の持った若い女性たちに手を出し、都合が悪くなると突き放す。結果、セクシャル
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