歌舞伎俳優の市川男女蔵が２日、東京・歌舞伎座で初日を迎えた「團菊祭五月大歌舞伎」（２６日・千秋楽）昼の部「毛抜」に出演した。
昨年４月に死去した父・４代目市川左團次さんの一年祭追善狂言。市川宗家に伝わる歌舞伎十八番の一つで、長く上演が途絶えていたが、明治４２年（１９０９年）に２代目左團次が復活させ、左團次家の家の芸にもなっている。主人公の粂寺弾正は、左團次さんの当たり役の一つでもあり、長男の男女蔵が演じて父をしのんだ。
花道から登場した男女蔵は、左團次さんをほうふつとさせるおおらかな姿と、よく通る声で観客を魅了。前半では腰元の巻絹（中村時蔵）や若衆の秀太郎（中村梅枝）に言い寄って振られると「近頃、面目次第もございません」と頭を下げて、笑いを誘った。後半では鋭い知性で小原万兵衛（尾上松緑）の嘘を見破り、錦の前（市川男寅）の髪が逆立つ原因を突き止め、派手な見得（みえ）の数々で何度も観客を沸かせた。 男女蔵は後見で登場した市川團十郎に見守られながら、「いずれも様のおかげをもちまして、身に余る大役をどうやらおおせた様にござりまする。どりゃ、お開きといたしましょう」。明瞭なセリフと共に意気揚々と花道を引っ込むと、客席からは万雷の拍手が送られた。
父の当たり役を受け継いだ男女蔵は「おやじさんの演じた役は、全て好きです。おやじさんの通った道は通らなければ、と思っています」と語った。また、左團次さんとの共演が多かった小野春道役の尾上菊五郎は、男女蔵の弾正について「お父つぁんに大分似てきましたね」と述べた。
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