無我夢中だった。０―０の７回１死満塁。門脇はカウント０―２から３球目の外角高めボール球に食らいついた。「気持ちで、反応で打ちました」。上半身をのけぞらせながらやや強引に振り抜いた打球は中前で弾み、巨
人にとって２０イニングぶりの「１」がスコアボードに刻まれる。一塁ベース上で高々と両手で“Ｖサイン”を突き上げた。阿部監督は「何とかしようとしているのはよくわかりましたし、普段からあれくらいガッついてほしいなと思います」。珍しく感情をむき出しにした男に、ベンチから笑顔で拍手を送った。
チームは６回まで中日・涌井の前にわずか１安打。７回は先頭の岡本和が四球、坂本が右前打と中軸がつなぎ、６番・萩尾が初球で送りバントを決めた。岸田の四球で１死満塁となり、９打席連続無安打と苦しんでいた門脇に打席が回ってきた。全員でつなぎ、ようやくつかんだチャンス。「本来は見極めたい球ですけど、それだけ気持ちは負けないぞって打席に立っていた」という門脇の執念が勝った。 開幕から１～３番で起用されたが、４月中旬から調子を落とし、３割４分を超えていた打率は約２週間で２割台中盤まで急降下。４月２８日のＤｅＮＡ戦（横浜）からは８番が定位置となった。試合中も表情を崩さない背番号５は「結果に左右されることは嫌ですけど、多少はされる」と胸中を明かした。「その中でああいう一打が出た。調子があまり良くない中でも勝ちに貢献できて良かった」。得点圏では２１打数７安打で打率３割３分３厘。ここぞの場面で集中力を発揮している。
試行錯誤の日々で、新しい試みが実った。今季は開幕からすり足気味のフォームで臨んだが、３日の阪神戦（東京Ｄ）以降はカウントが追い込まれると打席中にノーステップ打法へ変更。殊勲打の場面もファウル２球で追い込まれたが「何とかして前に飛ばしたいって思いがあるので」と新打法ではじき返した。 春季キャンプ前から阿部監督に遊撃の定位置を確約され、ここまで全３４試合にフル出場。それでも「体はもちろんキツイですけど、レギュラーになるためには出続けないといけない」。自らを「レギュラー」と認める日まで、結果を出し続ける。（内田 拓希）
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