米ドルの実質実効為替相場は1985年のプラザ合意以来の高値圏に到達している。だが、米国や世界の金融経済環境はその頃とは全く異なる。近い将来に「プラザ合意2.0」が締結されることはなかろうか?
米ドル の実質実効為替相場は1985年の プラザ合意 以来の高値圏に到達している。だが、米国や世界の 金融経済 環境はその頃とは全く異なる。近い将来に「 プラザ合意 2.0」が締結されることはなかろう。1月20日の大統領令「アメリカ・ファースト貿易政策」ではその枠組みの中で為替レートの問題を取り扱うことが示されたが、トランプ大統領は多国間交渉より二国間交渉を好む。通貨政策も様々な国と通商交渉を行う中で個別に検討されると考えるのが自然だろう。ただし、マクロ的な 金融経済 のダイナミズムをよく知るスコット・ベッセント新財務長官はその限界も理解しているはずだ。つまるところ、新長官の下で プラザ合意 2.
0のような多国間アプローチが模索されることになるかどうかは、長期的な観点では予断なく見極めていく必要がありそうだ。1985年のプラザ合意はレーガン政権の第1期でとられた「強い米ドル」政策の修正だった。71年の金ドル交換停止(ニクソン・ショック)は実物貨幣の時代から信用貨幣の時代への移行を決定的なものとし、財政政策や金融政策の自由度も一気に高まることになった。その分インフレ圧力が強まり、スタグフレーションの時代を迎えた。ポール・ボルカー議長率いる連邦準備理事会(FRB)の超金融引き締め策はスタグフレーションへの処方箋となった。だが、それに伴う金利上昇とドル高もあって、80年代前半にインフレが鎮静化に向かう中、失業率上昇など米経済は低迷した。その象徴が経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」であり、その是正のためドル高を国際協調で修正しようとしたのがプラザ合意だった。好調を維持する米経済、底堅い米国株式市場など、今日の金融経済環境は多くの面でプラザ合意が成立した80年代と大きく異なる。以下のポイントも、当時と現在との違いとして認識しておくべきだろう。世界的な国際収支の不均衡にも変化が生じている。80年代も今も、世界経済においては米国の経常赤字の大きさが突出しているが、当時の主な経常黒字国は日本と西ドイツだった。今日においては、世界経済の名目国内総生産(GDP)比で見た日本の黒字は縮小しており、代わって中国の黒字が増えている。この間、金融市場は世界経済を上回って拡大し、しかも国際分散投資が一般化したことで、米経常赤字の負担力が世界経済の規模拡大以上に増した。テクノロジーの進化で日本のような国で投資資金のホーム・バイアス(自国通貨志向)が低下したことなどの影響も大きい。こうした中、今日では金融市場は資源と資本の効率的分配に80年代よりもはるかに大きな役割を担っている。また、80年代に比べ、世界の外貨準備が劇的に増加したことも大きな変化だ。現在、世界の外貨準備は12兆ドルを超えているが、プラザ合意が成立した85年には4000億ドルに満たなかった。この間、外貨準備は世界の経済規模比で見ると3%ほどから10%を超えるところまで存在感を増している。なお、この領域でも中国など新興国の存在感が高まっている。昨年末時点で外貨準備保有高(金を除く)のランキング上位を見ると、2位の日本、3位のスイスを除くと、1位の中国、4位のインド、5位の台湾など新興国・地域がずらりと名を連ねる。現在のドル高是正や米貿易収支改善のためにプラザ合意2.0を成功に導くためには、中国を筆頭に新興国の関与が必須と言える。プラザ1.0はG5(主要5カ国)という価値観や利害が一致しやすい国々の間の合意だったが、2.0はより多様な価値観や利害を持つ国々が関与しなければならないはずだ。その分、実現のハードルは高くなる。一方、米国サイドでも、トランプ氏は多国間交渉より二国間交渉を好む。また、ベッセント新財務長官は上記のように金融市場が拡大し、国際的に資源と資本の分配を担っている現在において、政治的に為替レートを誘導することが潜在的に様々な問題を生じさせかねない、そのリスクを十分認識していることだろう。とは言え、トランプ政権においては貿易収支の不均衡を是正することが政治的に重要なアジェンダとなっていることは事実であり、1月20日の大統領令「アメリカ・ファースト貿易政策」ではその枠組みが示された。その中で財務長官によって為替レートの問題を取り扱うことが求められたことは軽視するべきではあるまい。実質実効為替相場で見ると、現在、米ドルは1985年プラザ合意以来の高値圏に到達しているが、人民元やユーロ、メキシコなどは長期的に見れば、それほど軟化している訳ではない。やはり突出しているのが円安だ。今のところ通商政策上、直接的には焦点となっているはカナダやメキシコ、そして中国だが、通貨政策が絡んでくると、どうしても円安問題は避けて通ることはできないように思われる。ここで重要になってくるのが、実は今局面では各国による「協調介入」が既に始まっているということだ。日本は22年以降、円買い介入を実施しており、この間、韓国の外貨準備も明確に減少している。昨年春の介入の時は、日韓両国の財務省は事前に24年4月にワシントンで行われたG20会合の際、米財務省との3者会合を持ち、イエレン財務長官から円安とウォン安への懸念を共有するとの声明まで引き出している。最近ではこれら3カ国に加え、インドやブラジルもドル売り介入を実施している模様。一定の制約があることは確かだが、ロシアの外貨準備高も22年以降、基本的に減少傾向にある。米ドル高抑制を図る場合、1980年代は理論的には無制限にドル売りが可能である米当局(財務省とFRB)の関与が必須だったかもしれない。だが、前述のように外貨準備が巨額化した今日には中国や日本、韓国などの国々が協調すれば、米国の参画がなくても、このように大規模な米ドル売り介入が可能なのである。とは言え、政治的にはトランプ氏はドル高をけん制しているものの、トランプ氏とベッセント財務長官はともに国際準備通貨(基軸通貨)としての米ドルのステータスを重視する発言を行っている。日本や韓国などの国々が中国とともに外貨準備で保有するドルを協調的に売却する案をトランプ政権が支持するとは考えにくい。やはり抜本的なドル高のトレンド転換を図るなら、ジェームズ・ベイカー財務長官の強いリーダーシップの下で成立したプラザ合意のように、米国が中心的な役割を担う形で行うのが自然ではあろう。だが前述のように、それがすぐに実現するような政治的、金融経済的な環境にあるようには見えない
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