アップルはICE(米移民・関税執行局)関連アプリをApp Storeから削除した。これを受け、開発者たちは配信停止の撤回を求めて立ち上がり、専門家はプラットフォームの“集中支配”に警鐘を鳴らす。
アップルは10月上旬、米移民・関税執行局(ICE)に関連する複数のアプリをApp Storeから削除した。そのうちのひとつである「Eyes Up」の開発者は10月8日の夜、今月後半に予定されている全米規模の抗議デモ「No Kings」を前にした地元集会に参加していた。『WIRED』が電話で連絡をとると、彼は安全上の理由から「マーク」という名前だけを使うことを条件に取材に応じてくれた。「現政権は、恨みを晴らそうと行動に出ます」とマークは言う。「そして、それを頻繁に、ためらうことなく実行するのです」 マークはそのことを身をもって知っている。 マークが開発したアプリは、ICEの活動を記録した動画や資料を保存・共有するためのプラットフォームだ。App Storeから削除されたのは、このアプリだけではない。10月初旬、アップルは「ICEBlock」を含むICE関連アプリを削除し始めた。その判断は、米司法長官パム・ボンディが「こうしたツールはICE職員を危険に晒す」と主張したことを受けてのことだった。アップルはその後、「Eyes Up」だけでなく「Red Dot」や「DEICER」など、ほかの追跡アプリも削除している。 マークと同じく、「ICEBlock」の開発者ジョシュア・アーロンも、アップルによるApp Storeでのアプリの配信停止の決定を覆そうとしている。「具体的なことは現時点では話せませんが、『ICEBlock』には非常に優秀な法務チームがついています。わたしたちはこの件に対して、できる限りの力を尽くして闘います」とアーロンは『WIRED』に語った。 この件についてアップルに問い合わせたが、回答は得られなかった。 削除されたICE関連アプリ マークは「Eyes Up」について、アップルによる配信停止の決定にすでに2回、異議を申し立てたという。「アプリがApp Storeに再び掲載されるまで、拒否されるたびに申し立てを続けます」とマークは言う。「アップルの行動は、臆病者のそれだと思います。だから、アップルに対して手を緩めるつもりはありません」 App Storeでの配信停止はマークの闘志に火をつけた。マークは地域コミュニティでの活動を広げ、「Eyes Up」の存在を多くの人に知らせるとともに、ICE職員とのやりとりの記録をアプリに投稿するよう呼びかけている。「Eyes Up」は現在もGoogle Play ストアと公式ウェブサイトから利用可能だ。 シラキュース大学の元教授ラファエル・コンセプシオンは、当初「DEICER」を「権利擁護アプリ」として開発した。その後、当局の行動に対して責任を問えるようにするため、ICEの位置情報マップを追加した。コンセプシオンは、音楽家ピーター・ガブリエルが1990年代に立ち上げた、人権侵害を記録する活動「WITNESS」に強く影響を受けたという。「DEICER」はアップルのApp Storeからは削除されたものの、Google Play ストアとウェブサイトから引き続き利用できる。 アップルは、ICEの監視アプリをApp Storeから削除した決定について、現時点で公式コメントを出していない。ただし、今週『Migrant Insider』は、「DEICER」のiOS版の削除について、アップルが開発者向けガイドラインを根拠として挙げたと報じている。このガイドラインは、「宗教、人種、性的指向、性別、国籍・民族など、特定の集団に対する中傷的・差別的・悪意ある内容」を禁じるものだ。最近、同様のICE監視アプリを削除したグーグルも先週『404 Media』に対し、「ICE職員も立場の弱い集団のひとつと見なしています」と語った。 この件についてグーグルに問い合わせたが、すぐには回答を得られなかった。 アップルと政権の距離感 捜査当局を監視したり、透明性を高めたりする仕組みを備えたモバイルアプリは、これまでも存在してきた。実際、アップルとグーグル自身も、同様の機能をもつアプリを提供している。グーグル傘下の運転の道案内兼交通アプリ「Waze」(iOSでも利用可能)は、公道での警察の目撃情報を共有し、通知を受け取れるクラウドソース機能を長年提供してきたのだ。アップルの「マップ」や「Googleマップ」にも同様の機能が備わっている。 「アップルがICEを追跡するアプリや、ICEの映像を記録するだけのアプリを削除したことには賛同できません」と語るのは、スタンフォード大学の政策研究者リアナ・フェファーコーンである。「ティム・クックは現政権に過剰に迎合しているように見えます」。アップルの最高経営責任者(CEO)であるクックは、ドナルド・トランプ大統領と複数のイベントで同席しており、トランプの就任式に出席するために100万ドルを寄付したとも報じられている。 アップルがApp Storeから削除したICEの監視・記録アプリは、米国憲法修正第1条で保障される「言論の自由」に明らかに該当するものだと、『WIRED』が取材した法律の専門家は指摘する。「これらのアプリは、憲法によって保護された表現を発信しています。人々が公共の場で目にした出来事をもとに、公共の関心にかかわる真実の情報を伝えているのです」と、電子フロンティア財団(EFF)の市民的自由の担当ディレクター、デイヴィッド・グリーンは語る。 だとしても、それらはトランプ政権がこうしたICE関連アプリの開発者への攻撃をやめる理由にはならないようだ。4月に「ICEBlock」が初めてApp Storeの上位に浮上すると、トランプ政権は開発者を起訴すると脅したのである。米司法長官のボンディは『Fox News』で「わたしたちは彼を注視しています」と語り、「気をつけたほうがいいでしょう」と警告したのだ。 ホワイトハウスとICEに取材を申し込んだが、どちらからもすぐには回答を得られなかった。 プラットフォーム支配の危うさ デジタル権利の専門家たちは、今回の事態は、主要なプラットフォームや通信経路が中央集権的に支配されることの危険性を浮き彫りにしていると指摘する。その支配の主体が政府であれ、巨大テック企業のような強大な民間組織であれ、それは変わらない。 Google Play ストアで正式に提供されているかどうかにかかわらず、Androidユーザーは自分の端末に好きなアプリを「サイドロード(手動でインストール)」することができる。しかし、アップルのエコシステムは「壁に囲まれた庭(ウォールドガーデン)」として機能してきた。そしてアップルは悪意あるアプリをより厳しく審査できるといったセキュリティ上の利点を掲げ、この仕組みを長年維持してきたのである。 以前から研究者や技術愛好家の一部は、アップルの閉鎖的なエコシステムを回避しようと、自らのiPhoneを“ジェイルブレイク(脱獄)”する方法を模索してきた。しかし近年では、脱獄はあまり盛んではない。 これはiPhoneのセキュリティが向上した結果でもあるが、こうした端末を狙う攻撃者の動向もひとつの要因となっている。攻撃者が複数の関連する脆弱性を組み合わせて悪用し、脱獄の手法をマルウェア、なかでも傭兵型スパイウェアに利用するケースが増えているのだ。 「たとえば壁紙の変更やテザリング、通知機能の改善、Safariのプライベートモードなど、かつては脱獄しなければ実現できなかった機能をアップルが次々と追加したことで、閉鎖的なエコシステムを破ろうとする動機は次第に薄れていきました」と、iOSのセキュリティと脱獄の研究を長年続けてきたウィル・ストラファックは語る。「しかし今回のICE関連アプリの件は、アップルが“決定者”であると同時に“単一障害点”でもあることの問題を浮き彫りにしています」 表現の自由を阻害 米国のテック企業は国家の支配を直接受けているわけではないものの、「表現の自由や異議を抑え込む場面では、“進んで権力に従う従者”のような存在になってしまっている」とスタンフォード大学のフェファーコーンは警鐘を鳴らす。 「特に残念なのは、『Think Different』という広告キャンペーンを展開した企業が、いまこうした行動をとっていることです」とフェファーコーンは言う。「そのキャンペーンに登場したマーティン・ルーサー・キングやガンディー、モハメド・アリなどの人物は誰一人として、現在のICEを支持するような人たちではなかったはずです」 (Originally published on wired.
com, translated by Nozomi Okuma. edited by Mamiko Nakano) ※『WIRED』によるセキュリティの関連記事はこちら。 Related Articles 気鋭のAI研究者たちやユヴァル・ノア・ハラリが語る「人類とAGIの未来」。伝説のゲームクリエイター・小島秀夫や小説家・川上未映子の「創作にかける思い」。大阪・関西万博で壮大なビジョンを実現した建築家・藤本壮介やアーティストの落合陽一。ビル・ゲイツの回顧録。さらには不老不死を追い求める富豪のブライアン・ジョンソン、パリ五輪金メダリストのBガール・AMIまで──。未来をつくるヴォイスが、ここに。グローバルメディア『WIRED』が総力を結集し、世界を動かす“本音”を届ける人気シリーズ「The Big Interview」の決定版!!詳細はこちら。
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