「北海道熱」の時代と日本の近代昆虫学の父 by 奥本大三郎（ファーブル昆虫館館長） 700種以上もの昆虫の和名を決定し、『日本昆虫学』を刊行するなど「虫好き」にとっての「神様」は、実はエネルギーに満ちた、とんでもない荒法師だった...。『アステイオン』97号 より
1年ばかりも経った頃、兄の所に明治学院時代の同級生で、後に札幌農学校に進み、北海道庁の官吏になっていた、和田健三という農学士の友人が訪ねてきた。和田は、松年の話を聞くと、「それなら、札幌農学校に来てはどうか。いや是非来い。北海道には未来があるぞ」と、熱心に勧めてくれた。「札幌農学校は、準大学の組織で、卒業すれば農学士になれる」というのが、松村にとっての殺し文句となった。その当時北海道と言えば、はるばる遠い蝦夷地であり、熊の住む未開の原野で、まるで外国のようなところ、というイメージがあった。札幌の螢雪時代
北海道に行くと決まったら、ぐずぐずしている暇はない。松年は早速、9月になって札幌に帰る和田の後に付いて行くことにしたが、当時、北海道はまだ、ほとんど江戸時代そのままの「蝦夷地」であって、東京から北海道までは、今では考えられないほど時間がかかった。
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