ウインカーの音の歴史や、自動車開発における音への意識について、自動車エンジニアの視点から解説。一見どうでもいい部品へのこだわりが、付加価値を生む可能性を示唆する。
ウインカー の音がカチカチと鳴るのは、昔、「リレー」という部品を使っていたからです。 電気を流したり切ったりする際に、リレーの中の銅板がくっついたり離れたりする物理的な作動音が「カチカチ」と響いていたんですね。
それでも音を鳴らしているのは、昔からの慣れや、ウインカーの消し忘れを防ぐといった実用的な理由からです。 今の音はすべて、スピーカーから流れる“電子音”にすぎません。 正直に言うと、私自身はこれまでクルマを開発してきたなかで、ウインカーの音にこだわったことは一度もありません。 基本的にはサプライヤーから納品される、その年次の標準的なユニット(アッセンブリー)を採用しています。
ただし、こうした一見「どうでもいい部品」にこだわると、面白い付加価値が生まれることもあります。 例えば、私が「86」を開発した際、ウインカーと同じように標準品を使い回すのが一般的だったルームミラーに疑問を持ち、新たにつくり直したことがあります。 この新開発のフレームレスミラーは結果的にレクサスのミラーよりも高価なものになったのですが、それがクルマの大きな特徴や付加価値になりました。 ウインカーの音も、あえてこだわればブランドの個性になり得るわけで、例えばMINIなどは、キャラクターづくりの一環として、音に非常にこだわっていますよね。
誰かが真剣にこだわれば、みんなが欲しがるような面白いウインカー音ができる可能性は十分にあると思います。1957年生まれの自動車エンジニア。 大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。 ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。 富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。
トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。
