歌舞伎『こえかぶ』の舞台が声優の多彩な演技で再現

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歌舞伎『こえかぶ』の舞台が声優の多彩な演技で再現
歌舞伎こえかぶ声優

歌舞伎『こえかぶ』の物語が声優による多彩な演技で展開され、登場人物の感情や複雑な人間関係が声のみで表現された。置鮎が十三役を演じ分け、緩急自在の演技で物語を色鮮やかに描き出す。特に化け猫の宙乗りや与八郎と重の井姫の感情の流れが印象的で、声優の表現力が光る舞台となった。

が着物に羽織を合わせた和装姿で登場し、まずは京三条大橋より池鯉鮒までの物語が展開された。 本作の特徴の一つでもあるのが登場人物の多さ。 序幕だけで置鮎は十三役を演じ分けなければならないのだが、そこはさすが声優。

この物語の主人公・丹波与八郎、与八郎の父である与惣兵衛、悪党の赤堀親子、与八郎と互いに想い合う重の井姫、百姓の娘・お松と妹のお袖、といった性別も身分も気質も異なる登場人物を次々と声の力で立ち上げていく。 また、八ツ橋村の場面では、貧乏暮らしのカタに女郎屋へ売られることになったお松の、絶望しながらも愛しい民部之助に思いを馳せる切ない気持ちをしっとりと表現した後、妹お袖の呪った恋敵が図らずも自分であることが判明するやいなや一転して取り乱して感情をぶつける激しさを見せるなど、緩急自在な演技で物語を色鮮やかに描き出す。

途中、由留木家の家宝を探す与八郎(團子)と重の井姫(笑也)、与八郎の父・与惣兵衛を殺してふたつの家宝を奪った赤堀官太夫、与八郎の家来・奴逸平、江戸へ向かう途中の旅人・弥次郎兵衛と喜多八が舞台上に登場し、家宝のひとつである九重の印を奪い合う様子をだんまり(暗闇の中の探り合いを見せる歌舞伎独自の演出技法)で見せることで、より理解を深めることができた。 二幕目は、中車の宙乗りが見どころとなる「岡崎無量寺」。 近年では単独で上演されることもある、人気の高い場面だ。

江戸へ旅するお袖(笑三郎)と民部之助(青虎)が子を連れて無量寺に一夜の宿を求めると、そこには死んだと聞いていたお袖の母・おさん(中車)がいた。 再会を喜ぶ親子だったが、おさんは実は化け猫で……という物語だ。 お袖は民部之助を慕い、母との思いがけない再会を素直に喜ぶといった愛情深さを持っているが、序幕の「こえかぶ」にて民部之助をめぐって図らずも姉のお松に呪いをかけてしまった様子が語られており、決して清らかではない複雑な人物像を笑三郎が地に足のついた存在感で立ち上げる。

お袖姉妹が奪い合った民部之助を、青虎が頼もしさと色気を兼ね備えた魅力で見せて説得力がある。 お袖たちと共に無量寺に泊まった在所女・おくら役の喜介の奮闘と、化け猫となった中車のアクロバティックな動きは見ごたえ十分。 60歳にして初役で挑む中車の気概が伝わってくる。 おくらが弥次郎兵衛と喜多八から安く買い取った重の井姫の十二単を身にまとった化け猫と、それを退治しようとする民部之助の立廻りは、互いのすごみがぶつかり合い緊迫感あふれるものになっている。

ラストに見せる化け猫姿の中車による宙乗りは、妖怪の不気味さがありながらも、十二単の美しさや猫らしい愛嬌も相まって、なんとも不思議な魅力を振りまきながら高さ12mという歌舞伎座の宙乗りよりもさらに高いところを悠々と飛び去っていき、客席は拍手喝采で見送った。 三幕目は再び置鮎による「こえかぶ」で、掛川より箱根大滝までが展開された。 序幕では導入ということもあり、十三役を演じ分けながら物語の筋を伝えることに重きが置かれていたが、一転してこの場面では四役の演じ分けで、人物の感情の流れをじっくりと見せる。

父の仇討ちのため赤堀親子を探す与八郎は、赤堀水右衛門によって足を鉄砲で打たれてしまう。 歩くことが難しくなった与八郎は重の井姫が曳く車に乗り、箱根で足の療養をしている。 そこへ現れた水右衛門は、重の井姫に対して自分の女にならなければ与八郎を殺すと迫り、重の井姫は与八郎の命を助けるために水右衛門のところへ行ってしまう。 やがて与八郎のもとへ戻って来た重の井姫だが、どこか様子がおかしく……という場面だ。

置鮎の情感たっぷりの演技によって、与八郎を想う重の井姫の献身が切なく胸に迫り、重の井姫に裏切られたと思い込んでいた与八郎が真実を知った瞬間の、悲哀と安堵と感謝の入り混じった複雑な心理が、巧みな声の抑揚に乗って心に響いてくる。 視覚で情報を得ることが格段に多くなった現代において、声優の声による表現力に耳を澄ませながら己の想像力を働かせることは、人間の根源的な感性を呼び覚ます時間でもあると感じられた。 声のみの演技で物語の世界を表現する声優の技を、生で堪能できる贅沢なひと時である。 大詰を迎え、再び團子が口上で登場する。

ここから先の場面は初演にはなく、團子の祖父・三世猿之助により創作されたことと、團子が十三役の早替りを勤めることが述べられると、客席からは期待と激励の拍手が送られた。 扮装だけでなく、仕草や声色、顔つきまで役に合わせて切り替える團子の姿からは誠実な一所懸命さが伝わってきて、その爽やかな奮闘ぶりから目が離せない。 途中で盗賊の赤星十三郎として市川寿猿(澤瀉屋の最年長で今月96歳を迎える)が茶目っ気たっぷりに登場すると、客席の空気が一気に和み、見事な演技と身のこなしに温かな拍手が沸き起こった。

クライマックスでは、与八郎が民部之助と共に水右衛門と対峙し、團子と中車の親子による立ち回りも繰り広げられる。 京三条大橋に始まった物語は無事に江戸日本橋までたどり着いて、これにて五十三驛の道中(ルビ:たび)は幕となった。

“ケレン”を取り入れ、歌舞伎の楽しさや華やかさが存分に詰め込まれた本作が、「こえかぶ」とのコラボレーションでより幅広い観客層に受け入れられやすい形での上演となっていることは、澤瀉屋と歌舞伎町大歌舞伎、それぞれの理念を体現しているように感じられた。 エンターテイメント性の高い革新的な試みで歌舞伎の新たな可能性を押し広げた三世猿之助の精神を、息子の中車と孫の團子が継承していくことを強く印象付けられると同時に、「コクーン歌舞伎」などで歌舞伎界に一石を投じ続けてきたBunkamuraの変わらぬ姿勢が示された公演でもある。

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