私が大会会長を務めるトレイルランニングのレース「Mt.FUJI100」が4月下旬に開催された。富士山麓を駆ける大会は今回、エントリーが4000人を超える過去最大の規模となり、その約3分の1が海外選手と国際化も加速した。3日にわたってほとんど不眠不休で100マイル(160キロ超)を完走する必要がある。人生でもめったにないような肉体の限界を超える経験をしなければならない。その過酷なレースを今回、7
私が大会会長を務めるトレイルランニングのレース「Mt. FUJI100」が4月下旬に開催された。 富士山麓を駆ける大会は今回、エントリーが4000人を超える過去最大の規模となり、その約3分の1が海外選手と国際化も加速した。 3日にわたってほとんど不眠不休で100マイル(160キロ超)を完走する必要がある。
人生でもめったにないような肉体の限界を超える経験をしなければならない。 その過酷なレースを今回、71歳の女性が45時間以内で完走したことを紹介したい。 彼女は長年、股関節の痛みと闘い、大好きな山を走ることを心から楽しめずに悲嘆に暮れていた。 人工股関節への手術に踏み切ったのは60歳を超えてからという。
年齢による体の負担を伴うなか、大きな決意があったに違いない。 135キロ付近のエイドステーションで彼女に会えた。 ほぼ2晩寝ていないにもかかわらず、体は元気そうだ。 その半面、表情は不安げで「完走できるでしょうか」とこぼした。 時間的には完走できる。
ただ、コースはここから激しさを増す。 疲労度が高まる終盤では、特に年配の選手は若い選手に比べ、推進力を生む骨格筋の力が著しく低下する。 大きなトラブルにつながりやすくなる局面だ。 完走を願いつつ、どうか無理をしすぎないでほしいとも祈った。
私は「きっと大丈夫」と伝え、漆黒の闇へ駆けだした彼女の背中を押した。 制限時間直前のゴール前。 腰を折り曲げながら必死に完走を目指す姿は、多くの人々の涙を誘った。 歳を重ねてもあんなふうに輝ける存在になりたいと思ったのは、私だけではないだろう。
それにしても長時間格闘する選手に向けた応援はいつも悩ましい。 プロのトレイルランナーである私の全盛期にこんな経験がある。 欧州での大会、意識がもうろうとなった最終盤だった。 日本人女性から「最後まで頑張ってください」との応援が飛んだ。
海外での大会で日本語による応援は心強いはず。 なのに当時の私はいらだちを感じた。 失神するほど死力を尽くしているのにこれ以上何を頑張ればいいのか、と。 今となれば何と傲慢で身勝手だったのだろうと猛省している。
ただ、その経験ゆえに軽々しく「頑張れ」と言えない。 走る選手の表情を見て「楽しむ気持ちを持って」と伝えることもあれば、時に「ここまで来てくれてありがとう」とねぎらうこともある。 選手の状況に応じた声掛けを意識するようにしている。 果たして、それが実際に良い言葉なのか気がかりだが。
今回は私の応援に、完走した選手からうれしいコメントを頂いた。1晩目の深夜に贈った「無理やりにでも笑顔! 」という言葉に対してだった。 最初は「こんなに疲れているのに何とむちゃを言う」とむっとしたと明かしてくれた。 しかし、2晩目の長く辛い夜間の森、そして最終盤でこの言葉がよぎったそうだ。
こわばった顔面を引きつらせながら笑ってみると、不思議なことに苦境を乗り越えられたという。 他の選手にはどのように思ってもらえたのだろうか。1968年群馬県生まれ。 早大から群馬県庁入り。 県職員時代にトレイルランニングを始め、富士登山競走、日本山岳耐久レースなどで優勝。40歳でプロに転向し、2009年に世界トップクラスが集う「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)」で3位。
同年、世界で最も権威がある「ウエスタン・ステーツ・エンデュランス・ラン」で準優勝。 競技の普及活動にも尽力し、日本トレイルランナーズ協会会長、Mt. FUJI100大会会長を務める。 世界のレースを集めたシリーズ「ワールド・トレイル・メジャーズ」への全戦参戦を目標に、現在も日々のトレーニングを欠かさない。
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