1990年式ロータス・エスプリ・ターボSEを515万円で購入した筆者。クラシックカー市場の再評価、円安、そして車両本体価格からの値引きなどを考慮し、現時点での適正価格と判断。納車前整備では、タイミングベルト交換、デフオイル漏れ修理、O2センサー交換などを行い、万全の状態で納車されるものの、空調ダイヤルスイッチの不具合など、旧車ならではの妥協点も。1000kmの自走納車を控え、期待と不安が入り混じる。
今のうちに乗っておきたい! (前話から続く)ついにやってきた納車前夜、自宅にてあらためて今回の注文書を確認した。 そこには、1990年式 ロータス・エスプリ ・ターボSEの車両本体価格と、税金、諸費用、そして納車前整備の費用がずらりと並び、最終的な支払総額が記されていた。 支払総額はズバリ、¥5,150,000。内訳を見ると、車両本体価格が¥4,753,000(そこから約¥220,000の値引き調整が入っている)、税金などの法定費用が約¥88,000、手続代行費用が約¥70,000。そして、納車前整備を含めた付属品等の合計が約¥460,000となっている。 安い買い物ではない。しかし、現在の クラシックカー 市場全体、そしてエスプリを取り巻くグローバルな相場を冷静に分析すると、¥5,150,000は妥当、いや、むしろ今のうちに乗っておくべき適正価格かもしれない。 調べると現在、イギリス本国やアメリカ市場において、スティーブンス・シェイプのエスプリ(特にインジェクションターボのSE)は再評価の波が押し寄せており、コンディションの良い個体は$50,000(約¥7,500,000)、あるいは£40,000(約¥7,600,000)を超える価格で取引されるケースもあるようだ。 同年代の空冷ポルシェ「911」やフェラーリが投機対象となって天文学的な価格に跳ね上がってしまった今、エスプリは“まだ手の届くリアルスーパーカー”として世界中のエンスージアストから熱い視線を浴びているのだろう。歴史的な円安の現状を踏まえれば、国内にある素性の良い個体を500万円台で手に入れられるのは、正解かもしれない。 納車前整備内容とは 古い機械を安全に走らせるためには、納車前の整備が不可欠である。今回、注文書に記された購入金額には、サンク福岡による手厚い納車前整備が含まれていた。 まずはエスプリの命綱とも言える、タイミングベルト一式の交換だ。2.
2リッターの「910Sエンジン」において、タイミングベルトの定期交換は避けて通れない。万が一走行中にベルトが切れれば、バルブとピストンが激突し、エンジンが一瞬で全損(ブロー)してしまうからだ。 そして、エスプリのタイミングベルト交換が大変なのは、作業性の悪さにある。ミッドシップレイアウトなので、複雑な作業を強いられるからだ。部品代よりも工賃のほうが高くつく作業を納車前に終わらせておくのは、1000kmの自走納車(福岡〜東京)を控える身として何よりも優先すべき安心材料だった。 さらにデフオイル漏れの修理も実施。ディファレンシャルギアのオイル漏れは古いクルマによくある持病だが、これを「少し滲んでいるだけだから……」と放置しないほうがいい。オイルが抜け切った状態で走り続ければ、内部のギアは潤滑を失い、凄まじい摩擦と熱で焼き付きを起こす。やがて背後から恐ろしい異音、つまりはギア鳴りが響き始め、最悪の場合はギアが粉砕、トランスアクスル全体が完全な再起不能に陥るのだ。これもまた、必須の延命治療だった。 加えて、実車確認時に点灯していた不気味なエンジンチェックランプの修理も実施。原因は排気中の酸素濃度を測るO2センサーであり、これを新品に交換した結果、警告灯は消え去った。また、何らかの理由で取り外されたままになっていた助手席側のグローブボックスも、無事に元の位置へと取り付けられ、内装のクリーニングも施された。 「これで完璧な状態で福岡を出発できる」 そう安堵したものの、ショップから連絡が入った。それは、このクルマが紛れもなく“30年前の英国車”であるのを痛烈に思い出させる内容だった。 「空調ダイヤルスイッチですが、無理に取り外そうとするとプラスチックの経年劣化で割れてしまいそうとの事で、移動ができておりません。動作自体はしますが、風量や温冷の位置がズレております」 なるほど。完璧を求めて貴重なプラスチック部品を粉砕するくらいなら、目盛りのズレを受け入れてだましだまし使うのが賢明な判断だろう。現代のクルマならクレームものだが、旧車と暮らすというのは、妥協を受け入れる寛容さが必要だ。 注文書に押した印鑑の重み。再評価される市場価値。過酷な整備を乗り越えたエンジン。そして、目盛りのズレた空調ダイヤル……不安と期待が入り交じる複雑な感情を抱えたまま、そっと注文書をファイルにしまった。 すべては明日、あの赤いシルエットを目の前にした瞬間に報われるはずだ。 長い長い1000kmのハネムーンが、幕を開けようとしている。 【連載バックナンバー】 Vol.1 今なら、あのクルマに乗れるのではないか? Vol.2 ついに実車と対面! 無謀とも言える決断とは 文と編集・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)
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