現代人はスマートフォンアプリやSNSを活用して、さまざまなニュースを共有しています。現代からさかのぼること約200年前の海では、クジラが群れの中で「捕鯨船を回避する方法を共有していた可能性が高い」ことが、19世紀の航海日誌をデジタル化して解析する研究により判明しました。
カナダ・ダルハウジー大学の生物学者であるハル・ホワイトヘッド氏らの研究チームは、マッコウクジラの捕鯨が人類の経済的発展や海洋の生態系に与えた影響を調べるため、デジタル化された19世紀の捕鯨船の航海日誌7万7749件を精査しました。その結果、2405件の航海日誌で、捕鯨船がマッコウクジラを捕捉していたことが分かりました。
そして、研究チームがマッコウクジラの捕獲成功率の推移を分析したところ、「捕鯨開始から2.4年後に捕獲成功率が58%低下していた」ことが判明しました。マッコウクジラの捕獲成功率が下がった要因としては、経年により捕鯨船の能力が落ちたことが考えられますが、研究チームは「ある地域で成功を収めた捕鯨船が、他の地域でも同様に成功を納めていたという記録があるため、捕鯨船の能力低下が成功率の低下をもたらしたとは考えられない」として、この仮説を否定しました。 また、「幼い個体や高齢の個体、病弱な個体などから順番に捕らえられ、強い個体が残ったので成功率が下がった」という仮説も、弱い個体の割合などを元にした計算結果と実際の捕獲成功率の低下がかけ離れているとして排除されました。こうして、捕鯨の成功率に関する要因を排除した結果から、研究チームは「クジラは捕獲されるのを避けるための適応的な行動を個体および社会レベルで学習した」と結論づけました。ホワイトヘッド氏は、捕鯨船の航海日誌の分析結果について「マッコウクジラは当初、海面近くで幼いクジラを中心にした陣形を組むという防御手段を取っていたようです。これは、当時唯一の天敵だったシャチから幼いクジラを守るための戦法でしたが、捕鯨船にとってはかえって好都合でした。そのことに気付いたマッコウクジラは、帆船では追いつけないよう風上に全力で逃げるようになり、この戦法がマッコウクジラの社会の中で共有されていったのでしょう」とコメントしました。