正倉院の筆 高い実用性 5種類再現 書家ら検証 ニュース : 奈良 : 地域 : 読売新聞オンライン
正倉院には18本の筆が伝わる。いずれも現在の毛筆(毛のみで穂をつくる無芯筆(むしんひつ))とは異なり、芯になる毛を紙で巻き、さらに毛と紙を交互に数段巻く「巻筆(まきふで)(有芯筆(ゆうしんひつ))」という製法による。軸には珍しい竹が使われ、直径14~31ミリと太く、象牙や金銀で装飾されていることから、その実用性を巡っては判断が分かれていた。過去に行われた材質調査で、使われている毛はウサギ、鹿、タヌキなどの毛であることが判明している。これらの成果をもとに、滋賀県高島市の製造筆業・藤野雲平さん(71)と、広島県熊野町の同・向久保健蔵さん(72)が、宝物筆のうち5種類を精密に再現。 3人の書家が実際に使ってみて、文字の完成度や書き手の疲労度、筆の性能(腰、墨含み)などを検証した結果、正倉院筆は十分に実用性を備えており、▽紙で締めているため弾力があり、線の太さや細さを表現しやすい▽重心が低いため、細い筆よりかえって疲れない▽材質や形状によって用途を使い分けていた――などの結論を得た。 正倉院の書跡で、太い線に沿って時々みられるかすかな線は、毛先の割れによるものではなく、巻筆の構造に伴う特徴であることもわかった。巻筆は、書ける範囲が先端から5~10ミリ程度で、芯を支える外側の毛が線に影響することがあるという。 書家の荒井利之氏は、正倉院紀要に収められた別の論文で、聖武天皇、光明皇后の書をはじめ、「国家珍宝帳」(東大寺大仏に献納した聖武天皇遺愛品のリスト)、正税帳や戸籍まで、正倉院に伝わる書跡、文書で幅広く、巻筆ならではの線の特徴を確認したと報告している。 大東文化大非常勤講師で墨、硯(すずり)、筆、紙に詳しい日野楠雄(なんゆう)氏(60)は、「8世紀の筆の現物は中国にも残っておらず、日本でも正倉院の筆の後は江戸時代まで確認することができない。正倉院筆の構造と機能にかかわる知見は、日本だけでなく、東アジアの筆の歴史、書の歴史を考える起点となるもので大変重要だ」と話している。攀桂堂は約400年前、江戸時代初めの元和年間に京で創業し、御所や公家に筆を納めてきた。今も主に写経用に年間300~500本を製造している。.
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