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マイクロプラスチックが免疫細胞の機能を阻害:健康への影響を解明

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マイクロプラスチックが免疫細胞の機能を阻害:健康への影響を解明
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プラスチック汚染が健康に及ぼす影響が懸念される中、ポリスチレンマイクロプラスチックが免疫細胞の機能を阻害するメカニズムを国際研究チームが解明。死んだ細胞の処理能力低下、感染症への抵抗力低下、精子形成への悪影響など、様々な健康リスクが示唆された。

近年、人間の血液や肺、肝臓、精巣、脳、胎盤、母乳など、人体のあらゆる部位から マイクロプラスチック が検出されており、 プラスチック汚染 が健康に害を及ぼす可能性が懸念されている。 ニューカッスル大学の2019年の研究によると、人類は1週間あたり約5gもの マイクロプラスチック を摂取している可能性があるという。だが、体内に入り込んだプラスチック粒子が細胞レベルで健康に影響を及ぼす詳細なメカニズムは、これまでほとんど解明されていなかった。 こうしたなか、ポリスチレン マイクロプラスチック (PS-MP)が 免疫細胞 の機能を阻害する具体的な代謝経路を、このほどメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターを中心とした国際研究チームが初めて突き止めた。 細胞内の“掃除屋”が働かなくなる 人間の体内には「マクロファージ」と呼ばれる 免疫細胞 が存在し、死細胞や病原体を飲み込んで処理する“掃除屋”のような役割を担っている。死んだ細胞を取り込んで消化するこのプロセスは「 エフェロサイトーシス 」と呼ばれ、組織の恒常性を維持するために毎日何百万回も繰り返されている。 この エフェロサイトーシス が正常に機能しないと、処理されなかった死細胞が組織に蓄積し、慢性炎症や自己免疫疾患の引き金になることが知られている。マクロファージは マイクロプラスチック を取り込むことはできるが、プラスチックを分解する酵素をもたないことから、その粒子は細胞内に蓄積し続ける。 研究者たちがマウス由来およびヒト由来のマクロファージにポリスチレン マイクロプラスチック を取り込ませたところ、死細胞を取り込む能力と消化する能力の両方が著しく低下することがわかった。 さらに、この障害はマウスの骨髄由来のマクロファージだけでなく、ヒトの多能性幹細胞から作製したマクロファージや、肺の免疫を維持する肺胞マクロファージ、さらには精巣内で死んだ精子細胞の処理を担うセルトリ細胞でも確認されたという。 「肺・肝臓・精巣という複数の臓器で、死細胞の処理を担う細胞に マイクロプラスチック が蓄積し、その機能を妨げることがわかりました」と、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのジャスティン・ペリーは説明する。「これは世界的な男性不妊の増加の一因となっている可能性があります」 感染症への抵抗力も低下する これらの発見は、試験管内だけでなく動物実験を通して生体内でも再現できた。研究者たちによると、気管から マイクロプラスチック を投与したマウスの肺では、死んだ上皮細胞が適切に処理されずに組織に残留していた。 同様に経口投与でも、肝臓のマクロファージであるクッパー細胞にプラスチック粒子が蓄積していたという。また、アセトアミノフェンによる肝細胞障害モデルでは、死細胞の除去が妨げられるとともに、肝機能障害の指標である血中のALT・ASTの値が有意に上昇した。 精巣への影響は、特に注目に値する。 マイクロプラスチック を経口投与されたマウスでは、精巣のセルトリ細胞にもプラスチック粒子の蓄積が確認された。20週間にわたる慢性暴露実験では、もとは正常な生殖能力をもっていたオスのマウスの産子数が急激に減少し、精子の数や運動性も低下していたという。 これはアポトーシス(不要になった細胞が遺伝的プログラムに従って能動的に死ぬこと)によって死んだ精子細胞が除去されなかったことで、精子の正常な形成が阻害されたことが原因であると考えられる。 このほか、 エフェロサイトーシス の阻害にとどまらず、 マイクロプラスチック を蓄積したマクロファージは病原体を攻撃する能力も低下していた。試験管内の実験では、大腸菌や黄色ブドウ球菌、真菌などに対する貪食能(異物を飲み込む能力)が顕著に損なわれることがわかった。 さらに、カビの一種であるアスペルギルス・フミガーツスをマウスの肺に感染させる実験では、 マイクロプラスチック を投与されたマウスの肺胞マクロファージによる真菌の取り込みと殺菌の能力が有意に低下し、肺内の生菌数が増加することも確認された。 「わたしは当初、 マイクロプラスチック が貪食能(異物を取り込んで処理する免疫機能)に意味のある影響を与えるかどうかについて懐疑的でした」と、ペリーは語る。「しかしいまとなっては、自分が間違っていたことは明らかです」 タンパク質の機能阻害が引き金に 研究チームは今回、細胞や組織に含まれるすべてのタンパク質の構造や機能を調べる「プロテオーム解析」と、生体内のアミノ酸や糖、有機酸などの低分子化合物を調べる「メタボローム解析」を組み合わせることで、 マイクロプラスチック の粒子が細胞に影響を及ぼすメカニズムの解明を試みた。 解析の結果、 マイクロプラスチック を取り込んだマクロファージが死細胞を消化しようとする際、解糖系(グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解する酵素反応経路)の副産物である「メチルグリオキサール(MGO)」が異常に蓄積することが判明した。なお、MGOはタンパク質に結合することで機能を損なわせる物質として知られており、糖尿病や加齢関連疾患との関連性も指摘されている。 「 マイクロプラスチック への暴露が加齢関連疾患やがんの発症プロセスと結びついている可能性もあることから、現在も関連性を研究し続けています」と、ペリーは説明する。 今回の研究では、MGOが「グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)」というタンパク質を標的にしていることが明らかになった。G6PDには、ペントースリン酸経路という代謝経路で「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)」という電子伝達体を産生する役割がある。 このNADPHこそが、細胞内の分解装置であるリソソームの正常な機能を支えている。つまり、MGOによってG6PDが糖化され活性が阻害されると、NADPHが不足して死んだ細胞の消化が滞ってしまうというわけだ。 MGOは通常、細胞内の「グリオキサラーゼ1(GLO1)」という酵素によって速やかに無毒化されている。このGLO1を人為的に過剰発現させる実験を通して、研究者たちは試験管内と生体内の双方で マイクロプラスチック によって阻害された エフェロサイトーシス が有意に回復することを実証した。 一方で、酵素活性がない変異型のGLO1-E172Qを過剰発現させても、同様の回復効果は見られなかった。この結果は、MGOの蓄積が今回観察された免疫機能障害の直接的な原因である可能性を強く示唆している。 見えない汚染物質の到達点 今回の研究が示した代謝経路は、 マイクロプラスチック が健康被害を引き起こす新たなメカニズムとして重要な意味をもつ。肺や肝臓での組織障害、そして精子形成の阻害と生殖能力の低下という多臓器にまたがる影響が、単一の細胞機能障害から連鎖的に生じることが初めて示されたからだ。 世界のプラスチック生産量が年間4億トンを超えるいま、 マイクロプラスチック は海洋だけでなく人体の深部にまで到達して、人類の免疫機能を静かに蝕んでいるかもしれない。一方、GLO1による機能回復が確認されたことは、将来的な介入策を検討するうえでの手がかりにもなりうる。 マイクロプラスチック が及ぼす生理的影響の全容解明は、まだ始まったばかりだ。 (Edited by Daisuke Takimoto) ※『WIRED』による マイクロプラスチック の関連記事はこちら。健康の関連記事はこちら。 Related Articles マイクロプラスチック は、人間の血液にも潜んでいる:研究結果 ペットボトルの水を日常的に飲む人は、 マイクロプラスチック を年間90,000個も多く摂取している 大気中には想像以上に大量のプラスチック粒子が漂っている:研究結果 未来の可能性を拡張するアイデアとイノベーションのエッセンスを凝縮した、毎年恒例の大好評企画の最新版「THE WIRED WORLD IN 2026」。世界中のクリエイターや実業家、科学者など40名超のビジョナリーが、テクノロジーやビジネス、カルチャーなど全10分野において、2026年を見通す最重要キーワードを掲げた総力特集! 詳細はこちら。.

近年、人間の血液や肺、肝臓、精巣、脳、胎盤、母乳など、人体のあらゆる部位からマイクロプラスチックが検出されており、プラスチック汚染が健康に害を及ぼす可能性が懸念されている。 ニューカッスル大学の2019年の研究によると、人類は1週間あたり約5gものマイクロプラスチックを摂取している可能性があるという。だが、体内に入り込んだプラスチック粒子が細胞レベルで健康に影響を及ぼす詳細なメカニズムは、これまでほとんど解明されていなかった。 こうしたなか、ポリスチレンマイクロプラスチック(PS-MP)が免疫細胞の機能を阻害する具体的な代謝経路を、このほどメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターを中心とした国際研究チームが初めて突き止めた。 細胞内の“掃除屋”が働かなくなる 人間の体内には「マクロファージ」と呼ばれる免疫細胞が存在し、死細胞や病原体を飲み込んで処理する“掃除屋”のような役割を担っている。死んだ細胞を取り込んで消化するこのプロセスは「エフェロサイトーシス」と呼ばれ、組織の恒常性を維持するために毎日何百万回も繰り返されている。 このエフェロサイトーシスが正常に機能しないと、処理されなかった死細胞が組織に蓄積し、慢性炎症や自己免疫疾患の引き金になることが知られている。マクロファージはマイクロプラスチックを取り込むことはできるが、プラスチックを分解する酵素をもたないことから、その粒子は細胞内に蓄積し続ける。 研究者たちがマウス由来およびヒト由来のマクロファージにポリスチレンマイクロプラスチックを取り込ませたところ、死細胞を取り込む能力と消化する能力の両方が著しく低下することがわかった。 さらに、この障害はマウスの骨髄由来のマクロファージだけでなく、ヒトの多能性幹細胞から作製したマクロファージや、肺の免疫を維持する肺胞マクロファージ、さらには精巣内で死んだ精子細胞の処理を担うセルトリ細胞でも確認されたという。 「肺・肝臓・精巣という複数の臓器で、死細胞の処理を担う細胞にマイクロプラスチックが蓄積し、その機能を妨げることがわかりました」と、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのジャスティン・ペリーは説明する。「これは世界的な男性不妊の増加の一因となっている可能性があります」 感染症への抵抗力も低下する これらの発見は、試験管内だけでなく動物実験を通して生体内でも再現できた。研究者たちによると、気管からマイクロプラスチックを投与したマウスの肺では、死んだ上皮細胞が適切に処理されずに組織に残留していた。 同様に経口投与でも、肝臓のマクロファージであるクッパー細胞にプラスチック粒子が蓄積していたという。また、アセトアミノフェンによる肝細胞障害モデルでは、死細胞の除去が妨げられるとともに、肝機能障害の指標である血中のALT・ASTの値が有意に上昇した。 精巣への影響は、特に注目に値する。マイクロプラスチックを経口投与されたマウスでは、精巣のセルトリ細胞にもプラスチック粒子の蓄積が確認された。20週間にわたる慢性暴露実験では、もとは正常な生殖能力をもっていたオスのマウスの産子数が急激に減少し、精子の数や運動性も低下していたという。 これはアポトーシス(不要になった細胞が遺伝的プログラムに従って能動的に死ぬこと)によって死んだ精子細胞が除去されなかったことで、精子の正常な形成が阻害されたことが原因であると考えられる。 このほか、エフェロサイトーシスの阻害にとどまらず、マイクロプラスチックを蓄積したマクロファージは病原体を攻撃する能力も低下していた。試験管内の実験では、大腸菌や黄色ブドウ球菌、真菌などに対する貪食能(異物を飲み込む能力)が顕著に損なわれることがわかった。 さらに、カビの一種であるアスペルギルス・フミガーツスをマウスの肺に感染させる実験では、マイクロプラスチックを投与されたマウスの肺胞マクロファージによる真菌の取り込みと殺菌の能力が有意に低下し、肺内の生菌数が増加することも確認された。 「わたしは当初、マイクロプラスチックが貪食能(異物を取り込んで処理する免疫機能)に意味のある影響を与えるかどうかについて懐疑的でした」と、ペリーは語る。「しかしいまとなっては、自分が間違っていたことは明らかです」 タンパク質の機能阻害が引き金に 研究チームは今回、細胞や組織に含まれるすべてのタンパク質の構造や機能を調べる「プロテオーム解析」と、生体内のアミノ酸や糖、有機酸などの低分子化合物を調べる「メタボローム解析」を組み合わせることで、マイクロプラスチックの粒子が細胞に影響を及ぼすメカニズムの解明を試みた。 解析の結果、マイクロプラスチックを取り込んだマクロファージが死細胞を消化しようとする際、解糖系(グルコースをピルビン酸などの有機酸に分解する酵素反応経路)の副産物である「メチルグリオキサール(MGO)」が異常に蓄積することが判明した。なお、MGOはタンパク質に結合することで機能を損なわせる物質として知られており、糖尿病や加齢関連疾患との関連性も指摘されている。 「マイクロプラスチックへの暴露が加齢関連疾患やがんの発症プロセスと結びついている可能性もあることから、現在も関連性を研究し続けています」と、ペリーは説明する。 今回の研究では、MGOが「グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)」というタンパク質を標的にしていることが明らかになった。G6PDには、ペントースリン酸経路という代謝経路で「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)」という電子伝達体を産生する役割がある。 このNADPHこそが、細胞内の分解装置であるリソソームの正常な機能を支えている。つまり、MGOによってG6PDが糖化され活性が阻害されると、NADPHが不足して死んだ細胞の消化が滞ってしまうというわけだ。 MGOは通常、細胞内の「グリオキサラーゼ1(GLO1)」という酵素によって速やかに無毒化されている。このGLO1を人為的に過剰発現させる実験を通して、研究者たちは試験管内と生体内の双方でマイクロプラスチックによって阻害されたエフェロサイトーシスが有意に回復することを実証した。 一方で、酵素活性がない変異型のGLO1-E172Qを過剰発現させても、同様の回復効果は見られなかった。この結果は、MGOの蓄積が今回観察された免疫機能障害の直接的な原因である可能性を強く示唆している。 見えない汚染物質の到達点 今回の研究が示した代謝経路は、マイクロプラスチックが健康被害を引き起こす新たなメカニズムとして重要な意味をもつ。肺や肝臓での組織障害、そして精子形成の阻害と生殖能力の低下という多臓器にまたがる影響が、単一の細胞機能障害から連鎖的に生じることが初めて示されたからだ。 世界のプラスチック生産量が年間4億トンを超えるいま、マイクロプラスチックは海洋だけでなく人体の深部にまで到達して、人類の免疫機能を静かに蝕んでいるかもしれない。一方、GLO1による機能回復が確認されたことは、将来的な介入策を検討するうえでの手がかりにもなりうる。マイクロプラスチックが及ぼす生理的影響の全容解明は、まだ始まったばかりだ。 (Edited by Daisuke Takimoto) ※『WIRED』によるマイクロプラスチックの関連記事はこちら。健康の関連記事はこちら。 Related Articles マイクロプラスチックは、人間の血液にも潜んでいる:研究結果 ペットボトルの水を日常的に飲む人は、マイクロプラスチックを年間90,000個も多く摂取している 大気中には想像以上に大量のプラスチック粒子が漂っている:研究結果 未来の可能性を拡張するアイデアとイノベーションのエッセンスを凝縮した、毎年恒例の大好評企画の最新版「THE WIRED WORLD IN 2026」。世界中のクリエイターや実業家、科学者など40名超のビジョナリーが、テクノロジーやビジネス、カルチャーなど全10分野において、2026年を見通す最重要キーワードを掲げた総力特集! 詳細はこちら。

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