ダークエネルギー分光装置(DESI)からの最新データの分析結果は、新発見には及ばないものの、ダークエネルギーが変動するものだという強力な証拠になりつつある。米国物理学会グローバル物理学サミットで発表された最新情報。
2024年に報じたように、ダークエネルギー分光装置(Dark Energy Spectroscopic Instrument、DESI)で得られた最初のデータ分析結果には、新しい物理学の注目すべき兆候が存在する。すなわち、ダークエネルギーは固定されたものではなく、時間とともに変化している可能性があるということだ。もちろん、兆候であって発見と言い切れる基準には届かなかったため、「本当なら大発見」という範囲にとどまっていた。 だが、DESIからのデータ量の増加にほかのデータセットも加わった結果、その兆候がかなり現実味を帯びてきた。DESIの調査部会で副議長を務めるテキサス大学ダラス校のムスタファ・イシャク=ブシャキが、変動するダークエネルギーの立証に向けて「決定的な節目を超えようとしている」と述べたほどだ。 イシャク=ブシャキをはじめとするDESIのチームメンバーは25年3月28日、カリフォルニア州アナハイムで開かれている米国物理学会のグローバル物理学サミットでその結果を発表した。一部の論文は、査読前論文の掲載サイト『arXiv』にも投稿されている。 アインシュタインの宇宙定数(ラムダ)は、重力と逆向きに働く斥力の存在を示唆している。量子物理学によると、絶対の真空でさえ空っぽではない。複雑な「量子のダンス」のごとく離れたり近づいたりしながら生成と消滅を繰り返す、いわゆる「仮想」粒子のかたちをしたエネルギーで満ちている。仮想粒子のこうした荒海のような状態からダークエネルギーが生じ、そこにわずかな推進力が生まれるために宇宙は加速膨張している可能性があるのだという。問題は、この量子真空に存在するエネルギーが巨大すぎることだ──観測されているよりおよそ10の120乗倍も大きいのだ。 つまり、ダークエネルギーが基本的に宇宙定数であるなら、宇宙は現在の観測よりはるかに速く加速膨張していることになる。しかし現に、これまでのどんな観測でもダークエネルギーは一定であると示されている。いまのところ最も合理的に説明できるのが、コールドダークマター(CDM)とダークエネルギーがゆるやかに相互作用しているという「ラムダCDMモデル」の理論だ。 それとは別に、宇宙を満たしているのは揺らぎのあるダークエネルギーではないかと提唱する考え方もあり、このエネルギーは「クインテッセンス」と呼ばれている。また、ダークエネルギーの密度は宇宙の歴史のなかでずっと変わってきたと仮定する別のモデルもある。 生まれた直後の宇宙は、水素やヘリウムの原子核などの亜原子粒子、すなわちバリオンが漂う高密度の熱いスープのような状態だった。わずかな揺らぎから、その初期の電離プラズマのなかに波紋が拡がり、宇宙が膨張して冷えていくときにそれが三次元の空間に凍りついていった。この波紋、あるいは泡が、バリオン音響振動(BAO)と呼ばれるものだ。BAOを、いわば宇宙の物差しのように使うと、宇宙の歴史にダークエネルギーが及ぼす影響を調査することができる。 その調査こそ、DESIが設計された目的だった。その泡の見かけのサイズを(近距離と遠距離どちらも)正確に測定するために、110億年分の銀河やクエーサーとの距離を測定するのである。そのデータを細かくスライスすると、過去の各時点で宇宙が膨張していた速さを確かめることができ、ダークエネルギーがその膨張にどう影響していたかというモデル化の精度が上がることになる。 24年に発表されたのは、宇宙時間の7つのスライスから取得した1年分のデータを分析した結果で、それには45万個のクエーサーが含まれている。これは過去最大の数であり、最も遠い過去(80億~110億年前)に関して、誤差の割合が非常に低い0.
82%という記録的な精度となった。ラムダCDMモデルと基本的には一致する結果だったが、この初年度の結果を、ほかの研究(宇宙マイクロ波背景放射(CMB)や、Ia型超新星などに関する研究)で得られたデータと組み合わせると、わずかながら差異が認められた。 基本的に、この差異はダークエネルギーが弱くなりつつある可能性を示唆していると言える。信頼度は、DESIのデータとCMBのデータセットの組み合わせについては2.6シグマだった。これに超新星のデータを加えると、どの超新星に関するデータセットを用いるかに応じて、それぞれ2.5シグマ、3.5シグマ、3.9シグマまで上がっている[編註: シグマは標準偏差を表す数値。ここではダークエネルギーの強さが変化している可能性を表す指標を示す。数値が高いほど偶然性が低くなり、確度が高くなる]。 重要なのは、DESIのデータを、独立したほかの測定値と組み合わせることだ。その理由について、「わたしたちは一貫性を求めているからです」と説明しているのは、DESIの共同スポークスパーソンも務める、ウォータールー大学のウィル・パーシヴァルだ。「現在の宇宙にどのくらいの物質が存在するのか、宇宙がどのくらいの速さで膨張しているのか、さまざまな実験のいずれでも答えが同じにならなければなりません。すべての実験がラムダCDMモデルに一致していても、パラメーターが違っているようではダメです。意味がありません。ラムダCDMモデルとの一貫性があるだけでは足りないのです。ラムダCDMモデルとの一貫性があって、しかもそのモデルの基本的な特性についてパラメーターが同じにならなければなりません」 今回発表された最新の結果は、DESIで収集された3年分のデータを網羅しており、ほぼ1,500万の銀河とクエーサーが対象になっている。今回も、DESIのデータ単独の場合はラムダCDMモデルに一致しており、つまりダークエネルギーは一定だと示された。そしてやはり、CMBや超新星、弱い重力レンズ効果といったほかのデータセットと組み合わせると、ダークエネルギーが時間とともに変化する可能性が強く示唆された。信頼水準は、データセットの組み合わせ次第で2.8シグマから4.2シグマにまで達している。「発見」とみなされる水準に値するしきい値とされる5シグマをわずかに下回るレベルだ。 こうした成果は、一般の人から見れば段階的な進歩のように思えるかもしれないが、現実はもっと複雑だ。パーシヴァルがこう説明している。「DESIのデータ自体は段階的ではありません。今回は1年分のデータではなく3年分のデータになりました。これが重要な意味をもつのは、領域が広がったからだけではなく、重なる領域も増えたからです。わたしたちの観測は、空にプレートを並べていくようなものです。その作業が1年分ではなく3年分になると、重なり合う部分がずっと増えてきます。そうすると、わたしたちが予定している十分な深度まで達したという意味でデータは完全に近づき、結果的にBAOの測定そのものが向上します。領域と深さのバランスにもよりますが、2~3倍の精度になりました」 スコットランド王室天文官のキャサリン・ハイマンスによると、今回の新しい結果を受けて科学者はDESIによる分析について自信を深めたという。ハイマンス自身、24年に発表された第1回の結果に驚愕しており、「最初のデータが発表されるとき、科学界は決まって、疑ってかかるものだからです」と、その理由を説明している。しかし、公開後の1年間にはほかの科学者も独自に分析を進めており、DESIのデータはその厳重な精査にも揺るがなかったのである。 ハイマンスは続ける。「ダークエネルギーの変動について、真に高い有意性が得られるのは、DESIの標準的な物差しに加えて、BAOや超新星のデータもあるからです。これが、宇宙の膨張率を観測する2本の柱になっており、両方を組み合わせることでダークエネルギーの変動が確実に検出されます」 DESIによる共同研究の次のステップは、5年分のデータを分析し、発見と言える5シグマのしきい値に近づいているいまの傾向が続くかどうかを確かめることだ。しきい値をさらに超える可能性もあり、そうなれば大変なことになる。実際にそうした事態が起こるのは、早くても2年後だとパーシヴァルは言う。ハイマンスによると、5シグマに到達すれば、赤方偏移がもっと大きい領域を対象に、DESIに似た実験を開始する予定のユークリッド宇宙望遠鏡のデータでも、同じような結果が見つかると天文学者は期待している。 ダークエネルギーが変動することが確認された場合の意味について、パーシヴァルはこう語っている。「そうなれば、広大な可能性が開かれます。理論家は、今後何年間も満足感にひたっていられるでしょう。科学者として、安易な期待は慎みたいところですが、仮に正しいとなったら、ダークエネルギーの発見以来の発展です。宇宙定数ラムダは機能している。それが機能しなくなる可能性がある。ということは、このプロセスに関してさらに新しい発見があるかもしれないのです。あらゆることがラムダCDMモデルと正確に一致すると証明されるのを不安視する人もいたようです。しかし、詳細に見たとき宇宙の加速に変化をもたらしている要因が実際にあるのだとしたら、その物理の手がかりになるのですから、期待がふくらみます」 「ダークエネルギーの変動を起こしうる要因について、根本的な裏付けはありません。その点は気になります」と、ハイマンスは付け加えている。「言ってみれば、観測者が理論物理学者に、挑戦状を突きつけているようなものです。ダークマターとダークエネルギーを一挙に説明できるなら、素晴らしいことです。宇宙モデルに疑問の余地が生じていることに、わたしはとても期待しています。理論物理の視野が広がり、新たな概念を考え出す方向に進みそうだからです。ダークマターとダークエネルギーの謎が解明されるかもしれない。その解明こそ、わたしたちの目指すものなのですから」 (Originally published on Ars Technica, translated by Akira Takahashi/LIBER, edited by Nobuko Igari) ※『WIRED』によるダークマターの関連記事はこちら。 従来の古典コンピューターが、「人間が設計した論理と回路」によって【計算を定義する】ものだとすれば、量子コンピューターは、「自然そのものがもつ情報処理のリズム」──複数の可能性がゆらぐように共存し、それらが干渉し、もつれ合いながら、最適な解へと収束していく流れ──に乗ることで、【計算を引き出す】アプローチと捉えることができる。言い換えるなら、自然の深層に刻まれた無数の可能態と、われら人類との“結び目”になりうる存在。それが、量子コンピューターだ。そんな量子コンピューターは、これからの社会に、文化に、産業に、いかなる変革をもたらすのだろうか? 来たるべき「2030年代(クオンタム・エイジ)」に向けた必読の「量子技術百科(クオンタムペディア)」!詳細はこちら。
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