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その問題の1つは、テクノロジー業界のリソースが、クリエイティブツールではなく、人工知能を主流とするデジタル製品の開発に注力されているということ。大企業はAIに投資していますが、このビジネス主導の技術開発は人間自身の創造性に投資することはできません。AI自体は本質的に創造的ではなく、ただ人間のアイデアを形にする実現者に過ぎません。人間の創造性を広げるためには、コンピューターからAIを除去し、コンピューターが人間の創造性を広げるようなソフトウェアの構築を目指す必要があるとミルキ氏は指摘します。などのオープンソースのソフトウェア開発コミュニティが台頭し、個人同士のイノベーションの向上に貢献しています。しかし、これらの相互運用的な開発手法には、「改善を遅らせること」「オープンスタンダードで一貫性のない機能が採用されること」「健全な企業間の競争によるイノベーションが減少すること」がリスクとしてあるともミルキ氏は指摘しています。
一方で、クリエイティブツールの標準化は人間の創造性にとってより良い環境の生成につながるとも考えられています。エンゲルバート氏が提唱した「コンピューターには人間の思考を変え、拡大する力がある」という言葉を現実のものとするためには、ソフトウェアはユーザー各自の思考プロセスに適合する必要があるとミルキ氏は述べています。クリエイティブツールをユーザーの思考プロセスに適応させることはコンピューターで人間の創造性を高めるための最初のステップであり、柔軟で拡張性の高い成形性を持つソフトウェアは、そのソフトウェアに対するユーザーの愛着を生むため、ビジネスの面でも有利だとミルキ氏は指摘します。 クリエイティブツールはエンジニアリングツールと違い、何かを作成するたびにコンテンツを一から構成する必要があります。クリエイティブツールにはいくつかの事前に定義されたテキスト、記号などのオプションが用意されており、ユーザーはそれらを使用して創造性を発揮します。これらのオプションがユーザーにとって効率的な使い心地を提供するものになるために、ユーザーインタフェース設計の段階から複雑さを排除し、簡素で誰にとっても使いやすいものにするべきだとミルキ氏は述べます。これに対し、「最小限に抑えられたオプションはオプション同士の組み合わせから生まれる創造性を阻害する」との意見もありますが、ミルキ氏は「ツールの使用体験を簡素化することで、これまでクリエイティブツールを使ったことがない人でも使いやすいものとなる」と述べています。
コンピューターはその誕生以来、人間がコンピューターに対応しなければいけないという頑固なツールでした。しかし、新たに誕生しつつある相互運用可能な、成形性があり、コミュニティ主導のデジタルクリエイティブツールは、コンピューターを人間の創造性の共同作成者として計り知れない可能性を秘めており、多数のユーザーに技術革新を広めるものになっているとミルキ氏は結論付けています。